目次
発達障害による30代女性の障害年金の受給事例
結果
障害厚生年金2級受給決定
ご相談内容
現在、薬局で障害者枠として就労を行っているものの、受診中の病院で広汎性発達障害と診断されているとのご相談でした。
ご本人は障害年金の受給を希望されていましたが、他の社会保険労務士事務所に発達障害での受給は難しいと依頼を断られてしまったとのことで弊所へのご相談となりました。
ご相談時に、ご本人と日常生活及び就労状況、ご病気の状況等についてお話を伺うことは可能でした。
また経験から発達障害での障害年金の受給可能性もあると考え手続きの代行をお引き受けすることとなりました。
請求手続きのポイント
本件の場合傷病名が広範性発達障害であることと、現在障害者枠ではあるものの就労行っている点が一般的に障害年金の受給は難しいのではないかと考えられる点でした。
ただ、広汎性発達障害の場合も日常生活や就労に支障が生じている場合には、障害年金の受給対象となります。
また就労を行っている場合にも障害者枠で就労行っている場合や会社の配慮のもと就労を行っている場合にはこちらも障害年金の対象となります。
本件の場合には厚生年金に加入し、障害者枠での就労でしたが日常生活及び就労に支障が生じていたために、障害厚生年金受給の決定を受けることができました。
※本件の場合物事に対する強いこだわり、コミニケーションが一方的、集団行動が困難という症状のほかに意欲低下やイライラ感などの症状もありました。
本件のお手続きを通して発達障害でも障害年金の受給が可能であること、または障害者枠で就労を行っている場合にも障害年金の受給に支障がない点が再確認できました。
特に障害者枠での就労と障害年金という制度はどちらも国の社会福祉政策の一つであることから、両立が可能であると考えられます。
発達障害での障害年金の請求の特徴
初診日の扱いの特徴
知的障害を伴わない場合
発達障害という病気は知的障害と同じように生来的な病気でありますので、本来であれば初診日は生まれた日となるはずですが発達障害の場合は成人後に初めて病院を受診する場合も多いことから、初診日は原則通り初めて医師の診断を受けた日が初診日となります。
知的障害を伴う場合
発達障害と知的障害が併存している場合には知的障害が障害年金を受給できるレベル(障害年金3級)以上の場合には知的障害と発達障害か同一傷病と判断され知的障害の初診日(生まれた日)が発達障害の初診日となります。
一方で、知的障害の病状が障害年金を受給できるレベルを満たしていない場合には知的障害と発達障害は別の病気と判断され、発達障害で初めて病院を受診した日が発達障害の初診日となります。
発達障害による障害年金の受給の可能性
発達障害の場合は時として知能指数が高く、身の回りのことが一人でできる場合もあります。
一方で社会的な行動やコミュニケーション能力に障害があったり、対人関係や他者との意思疎通が難しい場合や同じミスを繰り返して修正が困難な場合、記憶力に障害があり場合などもありこれらの点から障害年金を受給できる可能性があります。
発達障害による障害年金の等級
1級
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ著しく不適応の行動が見られるため、日常生活への適応が困難で常時援助を必要とするもの。厚生労働省認定要領
2級
発達障害があり、社会性やコミュニケーション能力が乏しくかつ不適応な行動が見られるため日常生活への適用に当たって援助が必要なもの。厚生労働省認定要領
3級
発達障害があり社会性やコミュニケーション能力が不十分でかつ社会行動に問題が見られるため労働が著しい制限を受けるもの。厚生労働省認定要領
上記のように、厚生労働省の認定要領により大まかな基準が決まっています。
障害厚生年金3級に該当するためには発達障害のためにコミニュケーション能力が劣っていたり、或いは他者との意思の疎通が難しい場合や同じミスを何度も繰り返し修正が難しいために就労に支障が生じる必要があります。
また障害年金2級に該当する発達障害の病状とはコミュニケーション能力が欠如し他者との意思の疎通が難しいためい場合やおねじミスを繰り消す、記憶力に問題がある等で日常生活に支障が生じている場合がこれに当たります。
2級と3級との違いは就労に支障が生じている場合は3級に該当し、日常生活に支障が生じている場合が2級に該当すると大まかにはいえます。
発達障害による請求時の具体的な判断基準
障害年金を受給するためには病状が障害年金の認定基準に定められた病状である必要があります。
発達障害の病状が基準に該当するかどうかは障害年金用の精神の診断書(第120号の4)の裏面の「日常生活能力の判定」及び「日常生活能力の程度」に注目する必要があります。
これらの項目にご自身またはご家族がそれぞれ支障が生じている項目がある場合には障害年金を受給できる可能性があります。
日常性生活能力の判定
(1)適切な食事・・・配膳などの準備も含めて適当量をバランスよく摂ることができるかどうか。
(2)身辺の清潔保持・・・洗面、洗髪、入浴等の身体の衛生保持や着替え等ができるかどうか。また自室の清掃や片付けができるかどうか。
(3)金銭管理と買い物・・・金銭を独力で適切に管理し、やりくりがほぼできるかどうか。また一人で買い物が可能であり、計画的な買い物がほぼできるかどうか。
(4)通院と服薬・・・規則的に通院や服薬を行い、病状等を主治医に伝えることができるかどうか。
(5)他人との意思伝達及び対人関係・・・他人の話を聞く、自分の意思を相手に伝える、集団的行動が行えるかどうか。
(6)身辺の安全保持 及び危機対応・・・事故等の危険から身を守る能力があるかどうか。通常と異なる事態となった時に他人に援助を求めるなどを含めて適正に対応することができるかどうか。
(7)社会性・・・銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能かどうか。また、社会生活に必要な手続きが行えるかどうか。
以上の7つの項目についてそれぞれ「できる」「概ねできるが時には助言や指導を必要とする」「助言や指導があればできる」「助言や指導してもできないもしくは行わない」の4段階で評価します。
日常生活能力の程度
日常生活能力の判定に比べ日常生活を俯瞰した場合に(1)~(5)どのレベルの該当するかを判断します。
一般的に(1)に該当する場合は障害年金の対象外となる場合がほとんどです。(2)(3)に該当する場合は障害年金2級または3級に該当する可能性があります。(4)(5)に該当する場合は障害年金2級または1級に該当する可能性があります。
(1)精神障害(病的体験・残遺症状・認知障害・性格変化等)を認めるが社会生活は普通にできる。
(2)精神障害を認め家庭内での生活は普通にできるが、社会生活には援助が必要である。
※例えば、日常的な家事をこなすことはできるが、状況や手順が変化したりすると困難を生じることがある。社会行動や自発的な行動が適切にできないこともある。一方で金銭管理は概ねできる場合など。
(3)精神障害を認め家庭内での単純な日常生活はできるが、ときに応じて援助が必要である。
※例えば、習慣化した外出はできるが、家事をこなすために助言や指導を必要とする。社会的な対人交流は、乏しく自発的な行動に困難がある。また金銭管理が困難な場合など。
(4)精神障害を認め日常生活における身の回りのことも多くの援助が必要である。
※例えば著しく適性を欠く行動が見受けられる。自発的な発言が少ない。あっても発言内容が不適切であったり不明瞭であったりする。また金銭管理ができない場合など。
(5)精神障害を認め、身の回りのこともほとんどできないため常時の援助が必要である。
※例えば家庭内生活においても食事や身の回りのことを自発的にすることができない。または在宅の場合に通院等の外出には付き添いが必要な場合など。