目次
拡張型心筋症とは
病気の特徴
拡張型心筋症は心筋の細胞の変質によって心室の壁が薄く伸びてしまい、このことによって左心室に大きな空間が生じ(内腔容積増加)血液がうまく送り出せなくなってしまう心臓の病気です。
血液をうまく送り出せなくなってしまうことによって、うっ血性心不全を起こし5年生存率は54%、10年生存率36%(厚生労働省研究班)と言われており、突然死を起こしてしまう場合もあります(5年生存率76%というデータもあります)。
拡張型心筋症は全国で17,000人の患者数があります。
一方で慎重に管理を行うことで長期間健康な生活を営むことができる場合もあり、新しい治療法も研究されています。
拡張型心筋症の原因
拡張型心筋症の原因はまだよく解明されていません。
拡張型心筋症の誘因(または原因)としてウイルス感染、遺伝子異常、免疫系の異常、薬剤、糖尿病、AIDS、アルコールの摂り過ぎなどあげることができます。
拡張型心筋症の症状
初期の段階では症状は無くうっ血性心不全が進行するにつれて症状が徐々に表れてきます。
初期症状は疲れやすくなったり、軽い運動などをした時に動悸や息切れなどの症状が現れる場合、足のむくみ、顔のむくみが出る場合の他、胸痛、呼吸困難などの症状があります。
また病状が進行すると夜間の発作性呼吸困難などの症状が現れることもあります。
さらに全身のむくみ、肝臓の腫れ、心室頻拍、心室細動をなどの症状、失神が現れる場合もあります。
拡張型心筋症による障害年金の受給
障害認定基準
拡張型心筋症を含む心疾患による障害の程度は呼吸困難、心悸亢進、尿量減少、夜間多尿、チアノーゼ、浮腫等の臨床症状、X 線、心電図等の検査成績一般状態、治療及び病状の経過等により総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものを1級
日常生活が著しい制限を受けるかまたは日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものを2級
また労働が制限を受けるかまたは労働に制限を加えることを必要とする程度のものを3級に該当するものとする。
認定要領
(1)心疾患とは心臓だけでなく血管を含む循環器疾患を指すものである。
心疾患による障害は、弁疾患、心筋疾患、虚血性心疾患(心筋梗塞、狭心症)難治性不整脈、大動脈疾患、先天性疾患に区分されます。
(2)心疾患の障害等級の認定は最終的には心臓機能が慢性的に障害された慢性心不全の状態を評価することである。
この状態は虚血性心疾患や弁疾患、心筋疾患などのあらゆる心疾患の終末像である。
慢性心不全とは心臓のポンプ機能の障害により身体の抹消組織への血液供給が不十分となった状態を意味し、一般的には左心室系の機能障害が主体のなすが右心室系の障害も考慮に入れなければならない。
左心室系の障害により動悸や息切れ、肺うっ血による呼吸困難、咳・痰、チアノーゼなどが右心室系の障害により全身倦怠感や浮腫、尿量減少、頸静脈怒張などの症状が出現する。
(3)心疾患の主要症状としては腰痛、動悸、呼吸困難、失神等の自覚症状、浮腫、チアノーゼ等の他覚所見がある。
臨床所見には自覚症状(心不全に基づく)と他覚所見があるが、後者は医師の診察により得られた客観的症状なので常に自覚症状と連動しているか否かに留意する必要がある。重症度は心電図、心エコー図、カテーテル検査、動脈血ガス分析値も参考にする。
(4)検査成績として血液検査( BNP値)、心電図、心エコー図、胸部 X 線 、X 線 CT 、 MRI 等、核医学検査、循環動態検査、心カテーテル検査(心カテーテル法、心血管造影法、冠動脈造影法等)がある
異常検査所見
A.安静時の心電図において0.2mV以上のSTの低下もしくは0.5mV以上の深い陰波T波(aVR誘導を除く)の所見のあるもの。
B.負荷心電図(6Mets未満相当)等で明らかな心筋虚血所見があるもの
C.胸部 X 線上で心胸郭係数60%以上または明らかな肺静脈性うっ血所見や間質性肺水腫のあるもの
D.心エコー図で中等度以上の左室肥大と心拡大、弁膜症、収縮能の低下、拡張能の制限、先天性異常のあるもの
E.心電図で重症な頻脈性または徐脈性不整脈所見のあるもの
F.左室駆出率(EF)40%以下のもの
G.BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)が、200pg/mL相当を超えるもの
H.重症冠動脈狭窄病変で左幹部に50%以上の狭窄、或いは3本の主要冠動脈に75%以上の狭窄を認めるもの
I.心電図で陳旧性心筋梗塞所見があり、かつ今日まで狭心症状を有するもの
一般状態区分
ア.無症状で社会活動ができ制限を受けることなく発病前と同等に振る舞えるもの。
イ.軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの、例えば軽い家事・事務など
ウ.歩行や身の回りのことはできるが時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居しているもの。
エ.身の回りのある程度のことはできるがしばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており自力では屋外への外出がほぼ不可能なもの。
オ.身の回りのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ活動の範囲が概ねベッド周辺に限られるもの。
NYHA分類
NYHA分類はニューヨーク心臓協会が定めた心不全の症状の程度の分類であり、以下のように心不全の重症を4種類に分類するものである。
Ⅰ度・・・心疾患があるが症状はなく通常の生活は制限されないもの。
Ⅱ度・・・心疾患患者で日常生活が軽度から中等度に制限されるもの。安静時には無症状だが、普通の行動で疲労、動悸、呼吸困難、狭心痛を生じるもの。
Ⅲ度・・・心疾患患者で日常生活が高度に制限されるもの。安静時は無症状だが、平地の歩行や日常生活以下の労作によっても症状が生じる。
Ⅳ度・・・心疾患患者で非常に軽度の活動でも何らかの症状を生ずる。安静時に於いても心不全・狭心症症状を生じることもある。
一般状態区分表とNYHA分類を含む診断書の重要性
障害年金の手続きにおいて、診断書は最も重要な書類といえます。拡張型心筋症による障害年金の手続きにおいても担当医師が作成する診断書は、最も重要な書類です。
診断書の内容の内、一般状態区分と NYHA分類の欄は請求者の病状を総合的に判断し記載する部分ですので診査において重視される傾向にあります。
このことから診断書の作成依頼を担当医師に行う場合には日常生活や就労にどの程度支障が生じているのかといった点について具体的に伝える必要があります。
また一般状態区分と NYHA分類の欄だけでなく他の記載についても診断書完成後、必ず確認を行い、現在の病状を反映していない記載がある場合には、担当医師に確認し修正を依頼する必要があります。
一方で医師は一度作成した診断書の内容を患者を含む第三者の意見により変更しない傾向にありますので、診断書作成の初めの段階で、担当医師に病状等について明確に伝えることが重要です。
神奈川県葉山町の40代男性の拡張型心筋症による障害厚生年金2級の受給事例
結果
障害厚生年金2級決定
年金額 136万9,200円
さかのぼり額 273万8,400円
ご相談
現在拡張型心筋症と診断され受診中であるとのことで葉山町の男性よりご相談のお電話をいただきました。
現在の病状について伺ったところ軽く歩行するだけでも息苦しい病状(呼吸困難)が続いており、就労もできず、一日家で横になっているとのことでした。
最初に病院にかかった日(初診時)について伺ったところ、現在から3年ほど前に呼吸困難になったため、最寄りの病院を受診したとのことでした。
保険料の納付状況について伺ったところ、初診日以前は厚生年金に加入しており、保険料の未納はないと思うとのことでした。このことから、ご面談を実施し、さらに詳しくお話を伺うこととしました。
ご面談
ご病気のために外出することは難しいとのことで葉山町のご自宅に訪問し、ご面談を実施することとしました。
発病から現在までの様子について伺ったところ、現在から4年ほど前に父の介護をしていた時に息苦しく呼吸困難になり、初めは風邪でもひいたのかと思っていたが、病状が改善しなかったため最寄りの病院を受診したとのことでした。
病院を受診後検査の結果、さらに精密検査が必要であるとのことで転院することなったとのことでした。
転院の結果突発性拡張型心筋症と診断され、その後1ヶ月入院となりました。
退院後月1回受診し投薬治療を行っているものの病状は一進一退で就労もできないようになり退職したとのことでした。
その後、病状悪化のため2回程入院し、現在は、医師の勧めで最寄りの病院を月1回受診しているとのことでした。
現在の病状は呼吸困難のため歩くことも難しくなっているとのことでした。
障害認定日(初診日から1年のヶ月後の日)以後3ヶ月以内の受診について伺ったところ当時も継続して受診を行っていたとのことでした。
このことから、当時の診断書と現在の病状を記載した診断書を提出することでさかのぼりでの請求が可能である旨をご説明しました。
一方で、障害認定日当時または障害認定日から現在に至るまでの間でフルタイムで就労を行っているような場合は遡りでの請求が難しくなる場合がある旨も合わせてご説明しました。
請求手続き
障害認定日当時の診断書及び現在の病状を記載した診断書の依頼に関しては、ご自身で依頼を行うことができるとのことでしたので弊所でご面談時に伺った内容をもとに担当医師に依頼状を作成し診断書用紙に添付することとしました。
障害年金の請求において診断書は最も重要な書類でありまた現在の病状を適切に反映したものとする必要があります。
一方で担当医師は患者と生活をともにしているわけではありませんので時として現在の病状よりも軽く診断書の内容を作成してしまう場合があります。
このことから、診断書の作成依頼を行う場合には現在の病状を明確に担当医師に伝える必要があります。
弊所で作成した依頼状を診断書用紙に添付することで、現在の病状を明確に担当して伝えることは可能となり適切な内容の診断書を入手することができます。
その後完成した診断書の内容を確認するとともにご面談時に伺った内容をもとに病歴就労状況等申立書を弊所にて作成し、他の必要書類とともに提出することで手続きを完了し数ヶ月後に障害厚生年金2級のさかのぼりでの受給決定を受けることができました。
請求手続きのポイント
拡張型心筋症を含め障害年金の手続きにおいて、診断書は最も重要な書類の一つといえます。
このため、担当医師が作成する診断書の内容は障害年金の受給の可否を決定すると言っても過言ではありません。
このことから診断書の作成依頼を担当医師に行う場合には、現在の病状を明確に担当医師に伝える必要があります。
本件においては、弊所でご面談時に伺った内容をもとに依頼状を作成し担当医師に渡すことで、拡張型心筋症のために就労ができず、また軽い動作でも呼吸困難となり、日常生活に著しく支障が生じているという点について診断書に反映することが可能となりました。
さらに障害認定日時点で病院を受診している場合には、当時の診断書と現在の病状を記載した診断書の二通を提出することで障害年金をさかのぼりで受給できる可能性があります。
本件の場合も障害認定日当時に病院を受診していたことから当時の診断書と現在の病状を記載した診断書の二通を入手することが可能となりさかのぼりでの手続きを行うことができました。
※本件受給事例は個人情報保護法の趣旨に則り文章の内容を作成しています。