人工透析は腎臓のご病気により腎不全となることで行わなければならない治療法の一つといえます。
当該人工透析を行っている場合は障害年金の対象となります。
ここでは人工透析による障害年金の請求について詳しくご説明いたします。
目次
現在(人工透析)のご病状について
人工透析を行っている場合は障害年金2級に該当します
他の障害での障害年金の請求を行う場合には診断書やその他の提出書類の内容によって1級~3級の等級が決定されます。
一方で人工透析で障害年金を請求する場合のご病状については、現在人工透析を行っている場合には原則として障害年金2級に認定されます。
更に病状が重い場合
更にその他日常生活の状況や検査成績などによっては1級に認定される場合もあります。
腎疾患の障害認定基準
1級の認定基準
病状が「身の回りのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床を強いられ活動の範囲が概ねベッド周辺に限られるもの」でありかつ検査数値が以下の(ア)(イ)どちらかに該当する場合
(ア)内因性クレアチニンクリアランス値が10ml/分未満
(イ)血清クレアチニン濃度が8mg/dl以上
2級の認定基準
病状が下記の(A)または(B)のどちらかに該当しかつ(ア)(イ)のいずれにも該当するか(ア)(イ)のいずれかが高度異常に該当するもの。または人工透析療法施行中のもの
(A)「歩行や身の回りのことはできるが、ときに少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが日中の50%以上は起居しているもの」または
(B)「身の回りのある程度のことはできるがしばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出等がほぼ不可能となったもの」
(ア)内因性クレアチニンクリアランス値が10ml/分以上20ml/分未満(高度異常:10ml/未満)
(イ)血清クレアチニン濃度が5mg/dl以上8mg/dl未満(高度異常:8mg/dl以上)
3級の認定基準
病状が(A)または(B)のどちらかに該当しかつ(ア)または(イ)のどちらかに該当するもの。
(A)「軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが歩行、軽労働や座業はできるもの。例えば軽い家事や事務など」
(B)「歩行や身の回りのことはできるが、ときに少し介助が必要なこともあり軽労働はできないが日中の50%以上は起居しているもの。」
(ア)内因性クレアチニンクリアランス値が20ml/分以上30ml/分未満
(イ)血清クレアチニン濃度が3mg/dl以上5mg/dl未満
(ウ)1日の尿蛋白量が3.5g以上を持続し、かつ②血清アルブミンが3.0g/dl以下又は③血清総蛋白6.0/dl以下
人工透析以外の場合は腎疾患の検査数値により障害年金の等級が決定されます。
このため人工透析を行っていない場合(開始前)であっても障害年金の対象となる場合がありますしまた人工透析中の場合でも病状によっては1級に認定される場合もあります。
初診日の特定について
初診日の特定は障害年金のお手続きを行う上で最初に行わなければならない重要な作業と言えます。
初診日とは当該ご病気で初めて医師の診断を受けた日を言います。
(関連記事:障害年金の初診日とはいつの時点のことを言いますか?)
人工透析における初診日の特定
糖尿病性腎症は、糖尿病による病状が悪化しその結果腎疾患を発症した場合をいいます。
糖尿病性腎症における初診日は人工透析を開始した日ではなく、糖尿病によって初めて病院を受診した日となります。
糖尿病によって初めて病院を受診する場合、健康診断などで数値に異常が出て病院を受診するようなケースが多いと思われます(過去には健康診断を受けた後に病院を受診した場合、健康診断を受けた日が初診日として扱われていましたが現在ではそのような扱いはされていません)。
ただ糖尿病の場合には、長い間療養を行い、徐々に病状が悪化する場合も少なくありませんので糖尿病で初めて病院を受診した日から人工透析を開始するまでかなりの時間が経過してしまう場合が多く、その結果、初診日のカルテなどが廃棄されてしまい受診状況等証明書が取れない場合があります。
このことは高血圧症が原因で腎不全となり人工透析を行っている場合にも同じことが言えます。
この場合には「診察券」や「初診日に関する第三者の申し立て書」、「初診日以降2番目3番目の病院の受診状況等証明書に書かれた初診日の記録」などその他の資料を提出することで初診日を証明することが可能になります。
障害年金の初診日ついての調査票(アンケート)
腎臓疾患や膀胱の疾患の場合(その他眼や耳、先天性股関節疾患、肺の病気、心臓の病気などにもアンケートがあります)にはアンケートを提出する必要があります。
アンケートというと何か事務処理上の感想などを聞きそれを今後の運営に反映するような気楽なもののような印象を受けます。
しかしこのアンケート(障害年金の初診日に関する調査票)とは障害年金の請求において大変重要な文章で、その最大の目的は初診日が本当はどの日になるのかを確認することにあります。
例えば、何十年も前に健康診断で尿蛋白の指摘を受けていたことやその当時病院を受診したことなどを記載した場合、その当時受診した日が初診日として扱われてしまう場合があります。
この場合、その何年も前の初診日の記録を探さなければならなくなり、障害年金の請求が大変難しくなる場合もあります。
このため、アンケートを記載する場合は不実の記載することは論外ですがアンケートという安直な語感に惑わされることはなく慎重に記載する必要があります。
※現在ではこのアンケートは初診日に関する調査票というタイトルになっていますがその目的はアンテートと同じですので記載する際には正しい記載をする注意が必要です。
障害認定日の特例
障害認定日とは障害の程度を確認する日を言いその日を基準にその日以後障害年金のお手続きを開始することが出来るようになる基準日です。
原則として障害認定日(障害の状態を確認する日)は初診日から1年6ヶ月を経過した日となりますが、人工透析の場合には特例があり人工透析を開始してから3ヶ月を経過した日となります。
一方で人工透析を開始した日が初診日から1年6ヶ月を経過している場合には原則通り初診日から1年6ヶ月を経過した日が障害認定日となります。
このことから、初診日から仮に1年6ヶ月を経過していない場合にも人工透析の場合には人工透析を開始してから3ヶ月を経過することで障害年金の手続きを行うことができます。
人工透析による障害年金の請求と就労
人工透析と就労
よくあるご質問に「就労行っている場合には障害年金が受給できないのですか」というものがあります。
人工透析を行っている場合、就労行うこと自体が大変なことであると思われます。
一方で、就労を行っていることは人工透析によって障害年金を受給する場合には何ら問題とはなりません。
人工透析による50代男性の障害厚生年金2級の受給事例
ご相談
「現在、人工透析を行っており、人工透析を行っている場合には障害年金が受給できると伺った」とのことでご相談のお電話をいただきました。
発病から現在までの様子について伺ったところ、現在から20年ほど前に会社の健康診断で異常が見つかり、それ以降糖尿病の治療を行っていたとのことでした。
その後、病状が悪化し、現在は人工透析を継続的に行っているとのことでした。
初診日の病院について伺ったところ、記憶が曖昧であまり覚えていないとのことでした。
事前に初診日がカルテなどの客観的な資料により証明できない場合には障害年金の受給ができない旨をご説明しました。
請求手続きのポイント
受診の記憶がある病院を辿りましたが初期段階で初診日の病院を特定することはできませんでした。
一方で、現在は退職している当時在籍していた会社に健康診断の資料の調査を依頼したところ、健康診断の資料が見つかり、そこに産業医のコメントとして初診日の病院の記載がありました。
そこで、この記載をもとに初診日を特定し、障害年金の手続きを行うこととしました。
その後、現在受診している病院に現在の病状を記載した診断書の作成依頼を行いました。
また弊所で病歴就労状況等申立書の作成も行い、その他必要書類とともに提出することで手続きを完了し約3ヶ月後に障害厚生年金2級の受給決定を受けることができました。
本件の場合、初期段階で初診日を特定することができませんでしたが、ご本人が健康診断の資料があるかもしれないことに気づかれ、当時の会社に調査依頼したことで当時の資料が発見され初診日を特定することができました。
このように人工透析により障害年金の手続きを行うためには初診日を特定できるかどうかが請求が成功するかどうかの分水嶺といえます。
まとめ
・人工透析を行っている場合には原則として障害年金2級に該当します。
・人工透析により障害年金を請求する場合に最も問題となる点は初診日を特定する作業といえます。
・糖尿病性腎症の場合には、糖尿病の初診日が初診日となりますので、場合によってはかなりの年月が経ってしまいカルテが廃棄され、初診日の証明書(受診状況等証明書)が取れない場合もあります。この場合にも他の客観的な証拠がある場合にはその資料にによって初診日を特定することが可能になります。