障害年金の手続きにおいて初診日は大変重要な日になります。
障害年金のお手続きのまず初めにしなければならないことが初診日を特定することです。
初診日は保険料の納付要件を満たしているか、どの年金制度から障害年金が支給されるか、障害認定日は何時になるのかの基準となるものですので、初診日が特定されない場合は障害年金を受給することが出来ません。
目次
初診日とは
初診日の意味
初診日とは障害年金の対象となる傷病について初めて医師または歯科医師の診察を受けた日を言います。
かつては健康診断で異常の数値が出て医師の診察を受けた場合などでは健康診断を受けたが初診日として扱われましたが、現在では原則通り初めて医師の診察を受け日が初診日となります。
初診日によって決まること
保険料の納付要件
初診日を特定することで初診日を基準に初診日のある月の前々月までの被保険者期間の3分の2以上の保険料を支払っているか、直近の1年間保険料の未納がない場合に保険料の納付要件を満たすこととなります。
保険料の納付要件を満たすことは障害年金を受給するための大前提となるクリアしなければならない要件です。
「保険料の納付要件は満たしてないが何とかなりませんか」とのご相談を受けることが多数ありますが、初診日の前々月までに保険料の納付要件を満たしていない場合は障害年金を受給することはできません。
障害厚生年金と障害基礎年金の違い
初診日を基準に初診日の時にご自身が働かれていて厚生年金に加入していた場合には障害厚生年金、働かれていなかった場合や自営業、学生の場合で国民年金に加入していた場合には障害基礎年金が支給されます。
厚生年金加入中の配偶者の扶養に入っていた場合は国民年金の第三号被保険者として障害基礎年金の対象となります。
障害厚生年金には1級と2級の他に3級や障害手当金の等級があります。
一方で障害基礎年金には三級や障害手当金の等級がありませんので、2級以上にご病状が該当しない場合は障害年金の対象となりません。
このように初診日の段階で厚生年金に加入していたか、国民年金に加入していたで支給される障害年金の種類が異なりまた受給できるかどうかの結果にも影響してきます。
障害認定日の決定
初診日から1年6ヶ月後の日のことを原則として障害認定日と言います。この日から障害年金の手続きを開始することが可能となり障害認定日以前は障害年金の手続きを開始することができません。
障害認定日は初診日から一年6ヶ月後の日ですので初診日が特定されなければ当然障害認定日も特定されません。
このことから障害年金の手続きを始める第一歩として初診日が特定される必要があります。
初診日の例
精神のご病気の初診日
うつ病、統合失調症など精神のご病気の初診日
うつ病や統合失調症などの精神のご病気の初診日は不眠やイライラ、幻聴などで初めて症状が出て初めて医師の診察を受けた日が初診日です。
不眠の症状が出て、初めに内科を受診しそのご紹介で精神科を受診した場合は不眠の症状が出て内科を受診した日が原則として初診日となります(審査の結果不眠とうつ病の因果関係が認められない場合は精神科を受診した日が初診日となる場合も僅かですがあります)。
先天性疾患の初診日
知的障害の初診日
・知的障害は生来的なご病気のため初めて病院を受診した日ではなく生まれた日(誕生日)が初診日となります。
脳性麻痺
・脳性麻痺は20歳前初診日として扱われます。
先天性股関節脱臼
先天性股関節脱臼の場合は完全脱臼したまま生育した場合は20歳前傷病として扱われます。
亜脱臼で20歳以降に受診した場合は受診して日が初診日となります。
一方で先天性股関節脱臼の場合でも幼少期以降症状や受診がなく成人してから新たに症状が出て受診した場合は成人後に初めて受信した日が初診日となる場合もあります。
発達障害の初診日
発達障害の場合は知的障害と同じ生来的なご病気ではありますが成人してから症状が出る場合も多いため原則通り始めて病院を受診した日が初診日となります。
発達障害と診断される前に強迫性障害などの神経症の症状が出て病院を受診している場合は強迫性障害で初めて病院を受診した日が初診日となります。
発達障害と診断される前にうつ病の症状が出て病院を受診している場合はうつ病の症状が出て病院を受診した日が発達障害の初診日となります。
軽度知的障害がある方が発達障害と診断されている場合は軽度知的障害が障害厚生年金3級に該当する程度のものである場合は生まれた日(誕生日)が初診日となり、軽度の知的障害が障害厚生年金三級に該当しない程度のものである場合は発達障害で初めて病院を受診した日が初診日となります。
人工透析の初診日
糖尿病性腎症により人工透析を行っている場合には健康診断で血糖値の異常などが指摘され初めて糖尿病で病院を受診した日が初診日となります。
糖尿病性腎症以外の腎臓の病気で人工透析を開始された場合は腎臓の病気で症状が出て初めて病院を受診した日が初診日となります。
糖尿病性網膜症や糖尿病性神経症などのように糖尿病が原因で目のご病気や歌下肢のご病気になった場合も人工透析の場合と同じように初めて糖尿病で病院を受診した日が初診日となります。
大腿骨頭無腐性壊死の初診日
ステロイド投与が原因の大腿骨頭無腐性壊死の場合はステロイド投与を開始した日が初診日となります。
高血圧が原因の脳出血、脳梗塞の初診日
高血圧が原因で脳出血や脳梗塞を発症した場合は高血圧で初めて病院を受診した日ではなく、脳出血や脳梗塞の症状が出て初めて病院を受診した日が初診日となります。
高血圧と脳出血や脳梗塞にも因果関係がありますが高血圧患者は全人口の中で多数存在し普通の生活習慣病であるために因果関係が希薄であると判断されるためと考えられます。
相当因果関係があるご病気の初診日
相当因果関係がある病気あとは前の病気がなければ後の病気が発生しなかったであろうという関係を言います。原則的に前の病気と後の病気に相当因果関係がある場合は後の病気の初診日は前の病気の症状が出て初めて病院を受診した日となります。
因果関係があり前の病気の初診日が後の病気の初診日となる場合
・糸球体腎炎、多発性嚢胞腎、慢性腎炎と慢性腎不全(因果関係あり)
・癌が転移した場合は転移前の癌の初診日が後の癌の初診日となります(因果関係あり)
初診日の証明方法
受診状況等証明書
初診日は一般的には受診状況等証明書という書面によって証明します。
受診状況等証明書は障害年金の対象となるご病気で初めて診断を受けた病院に作成依頼を行います。
受診状況等証明書は、カルテに基づいて記載されなければなりませんのでカルテが残っていない場合(カルテの保存期間は5年と法定されています)には受診状況等証明書の作成が難しくなる場合があります。
この場合も2番目、3番目に受診した病院を勝手に初診日の病院とすることは出来ません。
初診日の病院にカルテが残っていない場合には2番目ないしは3番目(またはそれ以降)の病院に受診状況等証明書の作成を依頼し、そこに初診日の病院の受診日や受診状況、病名等が記載されている場合にはその記載によって初診日の特定(証明)が可能となる場合があります。
受診状況等証明書が添付できない申立書
カルテの保存期間が過ぎているために受診状況等証明書を入手することができない場合には「受診状況等証明書が添付できない申立書」を代わりに提出します。
年金事務所の窓口などでは「受診状況等証明書が添付できない申立書」を提出することで初診日が証明され年金が受給できるような説明を受ける場合がありますが、「受診状況等証明書が添付できない申立書」のみを提出しても初診日を証明したことにはならず、障害年金を受給することはできません。
この場合には何らかの初診日を特定できる下記のような証拠書類を提出する必要があります。
・身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳
・身体障害者手帳等の申請時の診断書
・交通事故証明書
・健康診断の結果通知書
・労災の事故証明書
・事業所の健康診断の記録
・母子健康手帳
・病院や薬局のレシート
・健康保険(協会けんぽ・健康保険組合)の給付記録(レセプト等)
・インフォームドコンセントによる医療情報サマリー
・お薬手帳、領収書、診察券(日付、診療科の分かるものがベター)
・第三者証明
・入院記録
・日記(母親の日記で認められたケースが弊所でもあります。走り書き程度でしたが信ぴょう性があり認められました。)
この様に受診状況等証明書が添付できない申立書は受診状況等証明書以外の書類等の証拠で初診日を証明する時に同時に添付する書類の意味合いがあります。
第三者証明
第三者証明(初診日に関する第三者の申立書)はかつては初診日が20歳前にある場合にのみ認められていた書面ですが現在は、20歳以降に初診日がある場合にも認められる書面(初診日の証明方法)です。
第三者証明は三親等内の親族以外の第三者2名に初診日の日付や病院、受診状況、病状等をA4の証明書に記載してもらうことで初診日の証明が可能となります。
初診日の日付は、特定の日付でない場合にも限定された期間であれば認定される場合があります。
また初診日が20歳前の場合には、20歳前に受診したことが分かれば日付が特定していない場合にも初診日として認められます。
第三者証明はカルテが廃棄されているために受診状況等証明書が提出できない場合でかつ他の資料が何もない場合に、当時の状況を知っている第三者がいる場合には初診日を証明することができる強力な証拠資料となる場合があります。
初診に関する第三書の申立書(第三者証明)についてさらに詳しく
初診日の変更の可否
初診日の移動の可否
初診日は前述のように保険料の納付要件の基準となったり、また障害厚生年金と障害基礎年金のどちらから支給されるかの基準となったりします。
このため、保険料の納付要件を満たしていない場合や障害等級が3級に該当する可能性がある場合には初診日がいつになるかで障害年金の受給の可否が左右される場合があります(障害基礎年金には障害等級3級がありませんので、初診日の時点で厚生年金に加入していない場合には、障害年金が受給できない場合があります)。
一方で結論を申し上げれば初診日を自身の都合によって移動することはできません。
障害年金は一般の入院保険と同じように事が起こる前に加入して一定の保険料を支払っている必要があるからです。入院保険が入院後に加入しても無意味であるのと同じことです。
ただ、自身が考えていた初診日以前に何らかの病院を受診していて、その病院が初診日として認められる場合がありますので他の受診歴がないか再確認する必要はあります。
社会的治癒
また初診日以後病状が回復している期間が3年~5年以上ある場合には社会的治癒が認められ初診日が変更される可能性はあります。
例えば以前ご病気で病院を受診していましたが、その後症状が改善したため病院の受診も中断し、中断している期間が3年ないし5年以上ある場合はその間病気が治ったものと判断され新たに病院を受診した日が初診日として扱われることがあります。
社会的治癒は障害年金の請求手続き上の概念で医学的な概念ではありませんので、症状が出ず病院を受診していなかった期間に医学的に完全に病気が治っていなかった場合や前の病気と後の病気に因果関係がある場合でも認められることがあります。