目次
脳梗塞による障害年金の申請のポイント
脳梗塞によって身体の機能に障害が残ってしまった場合には一定の要件を満たすことで障害年金を受給することが出来ます。
脳梗塞で受給できる障害年金の種類
障害年金には障害厚生年金と障害基礎年金の2種類があります。
脳梗塞を発症し始めて病院を受診した時(初診日)に国民年金に加入していた場合には国民年金から障害基礎年金が支給され、ご自身で働かれていて厚生年金に加入していた場合には厚生年金から障害厚生年金が支給されます。
障害基礎年金には1級と2級がありますので、病状が2級以上に該当している場合に障害年金を受給することができます。
一方障害厚生年金には、1級~3級と障害手当金の4種類がありますので、病状が比較的軽度な場合にも障害年金(傷害手当金)を受給できる場合があります。
(関連記事:障害基礎年金と障害厚生年金の違いについて)
脳梗塞で受給できる障害年金の金額
1級 1,039,625 円 (月額 86,635 円)+子の加算
2級 831,700 円 (月額 69,308 円)+ 子の加算
3級 最低保障623,800円(月額51,983 円)
(令和7年8月現在)
上記金額に18歳の誕生日がある年度の3月31日までの子がある場合には子の加算額が加算されます。
また障害厚生年金1級と2級の場合は上記の金額に報酬比例部分の年金額(1級の場合は1.25倍)のほかに配偶者の加算額が年金額に加算されます。
障害年金の受給要件
受給要件
脳梗塞により障害年金を受給するためには障害年金の受給要件を満たす必要があります。
障害年金の受給要件を満たすためには初診日を特定し、保険料の納付要件を満たし、病状が障害年金の認定基準によって定められた程度である必要があります。
初診日の特定
初診日とは当該ご病気によって初めて医師の診断を受けた日をいます。
脳梗塞による初診日とは脳梗塞、脳出血の症状が出て初めて医師の診断を受けた日となります。
初診日の特定とはこの初診日をカルテ(またはカルテ以外の資料)に基づいて客観的に証明することを言えます。
脳梗塞の場合には多くの場合手足のしびれや歩行困難といった症状が現れ直ちに病院を受診し治療が開始されるケースが多いと思われますので、初診日初診日が特定できないために障害年金が受給できない場合は少ないと思われます。
一般的には初診日の病院に受診状況等証明書をカルテに基づいて作成してもらいますが初診日の病院と障害認定日の病院或いは現在の病院が同じ病院の場合には、障害認定日または初診日の診断書の初診日の欄(③欄)に初診日の日付を記載してもらうことで足ります。
保険料納付要件
障害年金を受給するためには保険料の納付要件を満たす必要があります。
保険料の納付要件を満たすためには特定された初診日を基準に初診日がある月の前々月までの被保険者期間の3分の2以上の保険料支払っている(免除を受けている)かまたは初診日のある月の前々月までの直近の1年間に保険料の未納がない場合に保険料の納付要件を満たします。
障害年金も一般の入院保険や死亡保険と同じ保険の性質を持っていますので事前(脳梗塞を発症する前)一定の保険料を支払っていない場合は年金(保険金)を受給することが出来ません。
脳梗塞の障害認定基準と障害手当金
障害認定基準
1級・・・身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずること不能ならしめる程度のものとする。
この日常生活の偉用を弁ずること不動ならしめる程度とは他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度のものである。
例えば身の回りのことは辛うじてできるが、それ以上の活動はできないものまたは行ってはいけないもの、すなわち病院内の生活で言えば活動の範囲が概ねベッド周辺に限られるものであり、家庭内の生活で言えば活動の範囲が概ね就床室内に限られるものである。
2級・・・身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活が著しい制限を受けるかまたは日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。
この日常生活が著しい制限を受けるかまたは日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で労働により収入を得ることができない程度のものである。
例えば、家庭内の極めて温和な活動(軽食作り・下着程度の洗濯)はできるが、それ以上の活動はできないものまたは行ってはいけないもの、すなわち病院内の生活で言えば活動の範囲が概ね病棟内に限られるものであり、家庭内の生活で言えば活動の範囲が概ね家屋内に限られるものである。
3級・・・労働に著しい制限を受けるかまたは労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。また、「傷病が治らないもの」にあっては労働が制限を受けるかまたは労働に制限を加えることを必要とする程度のものとする。
障害手当金・・・「傷病が治ったもの」であって労働が制限を受けるかまたは労働に制限を加えることを必要とする程度のものとする。
認定要領(認定基準をさらに具体的に定められた基準)
1級・・・①一上肢及び一下肢の用を全く廃したもの
②四肢の機能に相当程度の障害を残すもの
2級・・・①一上肢及び一下肢の機能に相当程度の障害を残すもの
②四肢に機能障害を残すもの
3級・・・一上肢及び一下肢に機能障害を残すもの
障害手当金とは
障害手当金とは初診日から5年以内に傷病が治った(症状固定)場合にその治った日から5年以内に請求することで受給できる一時金のことをいいます。
障害手当金は厚生年金・国民年金・共済年金の受給権がある者、または労災保険の給付を受けられる者は受給することができません。
また「症状が固定」していれば障害手当金がもらえる程度の障害の状態の場合で「症状が固定していない」場合は障害手当金ではなく障害厚生年金3級が受給できます。
障害手当金の最低補償額は1,171,400万円(障害厚生年金3級の最低補償額の2年分)であり、平均標準報酬額(月額)にかかわらず最低額が補償されます。
(令和7年8月現在)
脳梗塞による障害
上肢や下肢に生じる障害
脳梗塞による障害の特徴は身体の片側一方に麻痺が生じる片麻痺の症状です。この片麻痺により上肢や下肢に麻痺が生じ日常生活のあらゆる動作に支障が生じてしまいます。
脳梗塞により下肢に麻痺が出てしまった場合には歩行に支障が生じ、歩行のために杖を使用する場合や車椅子がなければ移動ができなくなってしまう場合もあります。また上肢の障害によって日常生活のあらゆる動作に支障が生じてしまう場合もあります。
その他の障害
このほかに言語障害や記憶障害、精神障害、またものを見る力に障害が出てしまう場合もあり、この場合には上肢や下肢の障害とともに併合認定されることでさらに上位等級での認定が可能となります。
高次脳機能障害があり記憶力や判断力に障害があり就労や日常生活に支障が生じている場合は肢体の障害以外にも障害年金の対象となる場合があります。
障害認定日の特例
脳梗塞による障害年金を請求する場合には、障害認定日の特例が適用されます。
初診日から6ヶ月以上経過した場合で、担当医師が症状が固定したと判断した場合はその判断した日が障害認定日とされます。
このため、通常であれば初診日から1年6ヶ月を経過しなければ障害年金の申請ができませんが、脳梗塞などの脳疾患の場合には特例が適用され、初診日から6ヶ月を経過すれば障害年金の手続きを開始することが可能となります。
一方で、担当医師が症状が固定したと判断した場合でも機能回復のためのリハビリを継続している場合には症状が固定されたとみなされず、障害年金の受給が認められない場合もあります。
またリハビリを行ってる場合でも機能維持の目的の場合には、障害年金の受給が認められる場合もあります。
脳梗塞による請求時の診断書作成のポイント
診断書は最も重要な書類
脳梗塞により障害年金を申請する上で最も重要な書類は担当医師が作成する診断書です。
このため診断書の作成依頼を担当医師に行う場合に重要なことは現在の病状を反映した内容を診断書に記載してもらうということです。
担当医師は長時間生活をともにしている家族とは異なり診察などの限られた時間の中で障害の程度を判断します。
このため、できるだけ現状を担当医師に伝え、手や脚(またはその他の部分)のどの部分に障害があり日常生活や就労に支障が生じているのかという点を理解してもらわなければなりません。
またリハビリ専門の病院などでかなりの時間担当医師と時間をともにする機会がある場合も、担当医師が現状について認識できていない場合がありますので、できるだけ自分の現状(病状)を担当医師に伝え診断書に反映してもらうことが重要です。
診断書の重要項目
障害年金用の診断書の記載は原則としてすべての項目が重要であると言えます。
このため、記載しなければいけない記載欄に記載漏れがある場合病状が軽いと判断されには審査の段階で不利になる場合があります。
また、記載が簡潔に行われている場合にも、障害の程度が軽いと判断される場合もあります。
このため、診断書の記載内容は必要十分に現状を反映したものでなければなりません。
また、診断書裏面の障害の状態欄は特に重要で関節の可動域や筋力の記載欄も必ず記載しなければなりません。
また、⑱蘭の「日常生活における動作の障害の程度」の記載においても
【下肢の障害について】
「片足で立つ、座る(正座、横座り、あぐら、足投げ出し)深くお辞儀をする、屋内で歩く、屋外で歩く、立ち上がる、階段を上る、階段を下りる」
などの部分についても障害がある部分については現状を明確に記載してもらわなければなりません。
【上肢の障害について】
「つまむ(新聞紙が引く抜けない程度)、握る(丸めた週刊誌が引く抜けない程度)、タオルを絞る(水をきれる程度)、紐を結ぶ、さじで食事をする、顔を洗う(顔に手のひらをつける)、用便の処置をする(ズボンの前に手をやる)、用便の処置をする(尻のところに手をやる)、上着の着脱(被りシャツを着て脱ぐ)、上着の着脱(Yシャツを着てボタンをとめる)、ズボンの着脱(どのような姿勢でもよい)、靴下を履く(どのような姿勢でもよい)」
などの動作について障害がある部分については明確に記載する必要があります。
障害の状態は
①一人でうまくできる②一人でできてもやや不自由③一人でできるが非常に不自由④一人で全くできなの4段階で評価されます。
以上の点は補助用具をしない場合の障害の状態を記載しなければなりません。医師の中には診断書の注意書きに明確に記載されているにもかかわらず補助用具を使用した状態で記載してしまう場合がありますので、この点については特に注意が必要です。
補助用具を使用した状態で判断されてしまう場合、行うことができない動作もすべて行えるようになってしまう場合があります。
このような単純な医師の作成上のミスにより障害年金の手続きが大幅に遅れてしまったり時には受給できるはずの年金が受給できなくなってしまう場合もあります。
さらに、補助用具を使用している場合には必ず使用状況、使用している補助用具について記載する必要があります。
等級判断
概ね杖を使わなければ歩行が困難になった段階で3級、車椅子を使わなければ移動はできなくなった状態で2級~1級に認定される可能性があります。
また、上肢の障害と下肢の障害が併存する場合にはより上位等級に認定される可能性があります。
脳梗塞による障害の場合には片麻痺により上肢と下肢の両方に障害が残る場合が多いため、障害厚生年金2級、障害基礎年金2級に該当する場合も多くあります。
脳梗塞による請求時の病歴就労状況等申立書の作成
脳梗塞により障害年金を請求する場合、診断書とともに重要な書類として自身(または代理人)で作成する病歴就労状況等申立書があります。
病歴就労状況等申立書は発病から現在までの病歴、就労状況などについて詳細に記載しなければならない書面です。
いわば診断書が病状を点で表している書面であるとすれば病歴就労状況等申立書は点と点をつなぐ線の役割を果たしています。
このことから、文書作成の際には過不足なく必要事項を記載する必要があります。
病歴就労状況等申立書の欄は多くとも3年から5年に分けて記載します。発病から現在までの期間があまり長くない場合にはそれよりも短い期間に分けて記載する方が良い場合もあります。
病院を受診している期間と受診していない期間がある場合には、それぞれの期間を分けて記載します。
病院を受診している期間は受診回数、治療内容、医師の指示等について記載し受診していない期間は受診しなかった理由について記載します。また入院期間がある場合にはその期間についても分けて記載し転院した場合になその事実と理由を記載します。
転院の理由としては「リハビリテーションのため」「医師が移動したため」「通院の便が悪かったため」などを例として挙げることが出来ます。
また就労についても就労している期間と就労していない期間、または休職している期間を分けて記載します。
脳梗塞による障害年金の受給事例
50代男性の脳梗塞による障害厚生年金2級の受給事例
ご相談
ご主人様が3年ほど前に脳梗塞で倒れ、現在は右半身に麻痺が残っているために仕事もできない状態であるとのことでご相談のお電話をいただきました。
ご自身(奥様)も障害を持っているため、夫婦でお手続きができないとのことでできれば手続きの代行を依頼したいとのことでした。このことから更にお話を詳しく伺うためご面談を実施することとしました。
ご面談
神奈川県内のご自宅までお伺いしご面談を実施することとなりました。
ご面談時にはご夫婦お二人とのご面談となりました。
ご病気の発症から現在までについて詳しくお話を伺ったところ、現在から3年ほど前に脳梗塞による発作から右半身に麻痺が生じ緊急搬送されたとのことでした。
その後、リハビリ専門の病院に転院し、現在も自宅を中心にリハビリを継続しているものの、右半身の麻痺が残っており、体を使う仕事を行っていたため、職場復帰ができない状態であるとのことでした。
障害の状態としては歩行は杖を使わなければ歩行できない状態であり、また右手にも麻痺が残っているため、物を掴むことも難しく日常生活は左手を使って行っている状態でした。
このことから、障害年金の受給可能性が高くお手続きの代行を弊所でお引き受けすることとなりました。
請求手続きのポイント
ご主人様だけでなく奥様にも障害があったことから、できるだけお手続きは弊所で行い、弊所で対応できない部分のみ少しだけご自身で動いていただくこととなりました。
このことから、最初に救急車で搬送された病院に受診状況等証明書の作成依頼を行い、また。障害認定日当時の病院に当時の病状を記載した診断書の作成依頼、さらに現在受診している病院に現在の病状を記載した診断書の作成依頼をそれぞれ行いました。
特に現在の病状を記載してもらう診断書に関しては、現在の状態をできるだけ正確に反映してもらうようにご面談時に伺った内容を書面でまとめ担当医師に渡しました。
その後、診断書及び受診状況等証明書の完成後内容を確認したところ、障害認定日の診断書及び現在の病状を記載した診断書の両方に修正が必要な部分が数ヶ所見つかりました。
このことから、弊所から診断書の修正依頼を病院に行い修正終了後、弊所にてお手続きを完了しました。
数ヶ月後に障害厚生年金2級の受給決定を受けることができました。
ご面談時には障害厚生年金3級または障害厚生年金2級の受給可能性がある旨をご本人にお伝えしましたが、右半身に麻痺が残っていたことと下半身だけではなく、上半身にも麻痺が残り日常生活に著しい支障が生じていたため、障害厚生年金2級の受給決定となりました。
肢体の障害の場合には下半身のみの障害の場合には、障害厚生年金3級になるケースが多く、また。下半身と上半身に障害がある場合には、障害厚生年金3級または障害年金2級になるケースが多いと思われます(下半身のみの場合にも2級または1級に認定される場合もあります)。
※本件受給事例は個人情報保護法の趣旨に沿って文章の内容を作成しています。
【受給事例】