更新日:2019年8月6日
注意欠陥多動性障害( ADHD )は障害年金の請求においても誤解の多い疾病と言えます。
そこで注意欠陥多動性障害(ADHD)での障害年金の受給について詳しくご説明いたします。
目次
注意欠陥多動性障害( ADHD )は障害年金の対象になるのか
注意欠陥多動性障害( ADHD )は障害年金の対象となる傷病です。
このため注意欠陥多動性障害( ADHD )という病名のみをもって障害年金の対象外として扱われることはありません。
障害年金の対象となるかどうかは注意欠陥多動性障害( ADHD )の病状により日常生活や就労にどれだけ支障が生じているかという点から判断されます。
注意欠陥多動性障害( ADHD )の初診日について
注意欠陥多動性障害( ADHD )をはじめとする発達障害は生来的なご病気ですので、知的障害と同じように生まれた日(誕生日)が初診日となるように思われます。
実際に生来的な病気である知的障害の初診日は生まれた日(誕生日)として扱われるため受給できる年金は、障害基礎年金に限られるものの、初診日を証明する必要がないため場合によっては他の病気よりも障害年金の手続きが簡単になる場合があります。
一方で同じ生来的な病気である注意欠陥多動性障害( ADHD )の場合は生まれながらの病気ではあるものの、成人するまでご病気に気づかず成人した後に受診する場合も多いため障害年金の手続きにおいては、原則通り初めて病院を受診した日を初診日として取り扱います。
他の障害が併発している場合の初診日について
- 発達障害の方が後にうつ病を発症した場合には発達障害とうつ病は、同一の病気とみなされ発達障害で初めて病院を受診した日が初診日となります。
- 発達障害の方が神経症で「精神病の様態を示している場合」にも同一の病気とみなされ発達障害で初めて病院を受診した日が初診日となります。
- 障害年金の3級に該当する程度の知的障害の方が発達障害を併発した場合には同一の病気とみなされ生まれた日(誕生日)が初診日となります。
注意欠陥多動性障害(ADHD)と障害認定日と遡及請求
ADHDの場合も障害認定日は一般原則通り初診日から1年6か月後の日が障害認定日となりその日以降に障害年金の手続きを行うことが出来ます。
また障害認定日から1年以上経過した後に障害年金の請求を行う場合は遡及請求として、障害認定日当時の診断書と現在の病状を記載した診断書の2通を提出することで遡及請求が出来る場合があります(最高で5年分の年金を遡りで受給できる場合があります)。
注意欠陥多動性障害( ADHD )の病状と診断書
病気の特徴と障害年金
注意欠陥多動性障害( ADHD )は障害年金の対象となる傷病ではありますが、知的障害やうつ病と異なり、必ずしも日常生活や就労が出来ないほどの状態ではない場合もあります。
このため、障害年金を受給する場合には、この病気の特徴である「一つのことに集中しすぎて切り替えができない」「音や音声に過敏に反応してしまう」「注意が長続きしない」「物事を忘れやすい」「順序立てて仕事を行うことが難しい」「体の動きやおしゃべりが自分でコントロールできない」「衝動性があり他者と適度な距離感を保つことが難しい」などのの他「失くし物、遅刻、欠勤が多い」と言った特有の症状によって社会に適応できず、就労や日常生活が難しい点について担当医が作成する診断書に反映してもらう必要があります。
うつ病の場合には意欲低下などによってそもそも行動を起こすことが難しく、このことによって就労や日常生活に支障が生じてしまいます。
一方、注意欠陥多動性障害( ADHD )の場合には意欲低下や知的障害はないものの(意欲低下や知的障害がある場合もあります)、この病気特有の症状(不注意・多動性・衝動性)によって社会性が損なわれまた日常生活や就労に支障が生じているという点が障害年金を受給できる理由となります。
診断書の作成のポイント
また、この病気での障害年金の手続きを行う場合には、精神障害用の診断書用紙を使用して担当の医師に記載を依頼しなければなりません。
担当医師は本人と一緒に生活をともにしているわけではありませんので、日常生活や就労にどのように支障が生じているかという点については、必ずしも全てを知っている訳ではありません。
このことから、日常生活や就労についてどのような点について支障が生じているのか(集中しすぎてしまい、切り替えができない、音や音声、光に敏感に反応しすぎてしまう、しゃべり出すと止まらないなど)について担当医師に伝える必要があります。
また注意欠陥多動性障害( ADHD )の場合には他者とのコミニュケーションや役所等の手続きなどは一人で行うことが難しい場合はこの点についても診断書に明確に記載してもらう必要があります。
障害年金の等級について
注意欠陥多動性障害(ADHD)の障害等級
注意欠陥多動性障害の障害認定基準は以下のように定められています。
1級・・・注意欠陥多動性障害があり、社会性やコミュニケーション能力が欠如しており、かつ著しく不適応の行動が見られるため日常生活への適応が困難で常時援助が必要とするもの。
2級・・・注意欠陥多動性障害があり、社会性やコミニュケーション能力が乏しくかつ不適用の行動が見られるため日常生活への適応に当たって援助が必要なもの。
3級・・・注意欠陥多動性障害があり、社会性やコミュニケーション能力が不十分でかつ社会行動に問題が見られるため労働が著しい制限を受けるもの。
※ADHDのために就労が出来ず日常生活に支障が生じている場合に障害基礎年金2級、就労に支障が生じ障害者枠での就労かまたはそれに準ずるようなご病状の場合に障害厚生年金3級に該当する可能性があります。
注意欠陥多動性障害(ADHD)の診断書の内容における症状と等級
注意欠陥多動性障害(ADHD)の症状が日常生活にどの程度支障が生じているのかを診断書の内容を通してみることが出来ます。
【日常生活能力の判定】
(1)適切な食事(配膳などの準備を含めて適量をバランスよく摂ることがほぼできる)
(2)身辺の清潔保持(洗面、洗髪、入浴等の身体の衛生保持や着替え等ができる。また、自室の掃除や片付けができる)
(3)金銭管理と買い物(金銭を独力で適切に管理し、やりくりがほぼできる。また、一人で買い物が可能であり計画的な買い物はほぼできる)
(4)通院と服薬(規則的に通院や服薬を行い、症状等を主治医に伝えることができる)
(5)他人との意思伝達及び対人関係(他人の話を聞く、自分の意思を相手に伝える、集団行動が行えるなど)
(6)身辺の安全保持及び危機対応(事故等の危機から身を守る能力がある。通常と異なる事態となった時に他人に援助を求めるなどを含めて、適正に対応することが出来る)
(7)社会性(銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能。また、社会生活に必要な手続きが行える。)
上記項目をA.できるB.おおむねできるが時に助言や指導を必要とするC.助言や指導があればできるD.助言や指導をしてもできない若しくは行わないの4段階で診断書の内容は判断されます。
【日常生活能力の程度】
(1)精神障害(病的体験・残遺症状・認知障害・性格変化等)を認めるが社会生活は普通にできる。
(2)精神障害を認め、家庭内での生活は普通にできる(たとえば日常的な家事は普通にこなすことが出来るが、状況や手順が変化したりすると困難を生じることがある。社会行動や自発的な行動が適切にできないことがある。金銭管理はおおむねできる場合)
(3)精神障害を認め、家庭内での単純な日常生活は出来るが、時に応じて援助が必要である(たとえば、習慣化した外出は出来るが家事をこなすために助言や指導を必要とする。社会的な対人交流は乏しく自発的な行動に困難がある。金銭管理が困難な場合など)
(4)精神障害を認め、日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である(たとえば、著しく適性を欠く行動が見受けられる。自発的な発言が少ない、あっても発言内容が不適切であったり不明瞭であったりする。金銭管理が出来ない場合など)
(5)精神障害を認め、身のまわりのことももとんどできないため、常時の援助がひつようである。(たとえば、家庭内生活においても、食事や身の回りのことを自発的にすることが出来ない。また、在宅の場合に通院等の外出には付添が必要な場合など)
診断書作成においては上記(1)~(5)のうちあてはまるものを選択します。
注意欠陥多動性障害(ADHD)と就労
精神の疾患による障害年金の請求と就労の関係
精神の疾患により障害年金の請求を行う場合には就労を行っていることが診査に当たってマイナスに働く場合があります。
一方で、注意欠陥多動性障害( ADHD )の場合には就労を行っている場合にも審査に影響を与えず障害年金の受給が認められる場合が多くあります。
特に障害者枠や就労継続支援で就労されている場合や一般の就労の場合でも会社の援助のもと就労している場合には障害厚生年金はもとより障害基礎年金の対象となる場合もあります。
障害基礎年金の場合
障害基礎年金の場合には1級と2級しかありませんので、ある程度重い病状でなければ障害年金を受給することはできません。
一方で、障害者枠で就労している場合や一般企業に就労している場合にも上司や同僚の援助のもとに就労している場合、またフルタイムで働くことが難しい場合などには就労している場合にも注意欠陥多動性障害( ADHD )で障害基礎年金を受給できる場合があります。
一方で昨今障害年金の審査が厳密、詳細になってきており就労している場合はたとえ障害者枠での就労の場合も就労時間、勤務日数、通勤方法、通勤の所要時間、付き添うに有無を審査され更に就労時も仕事内容、コミュニケーションの状況、援助の程度、職場外での家族のサポート、欠勤遅刻の有無等が事細かに審査対象となります。
このため診断書もこのような状況を踏まえ日常生活や就労状況で支障が生じている部分、サポートを受けている部分を記載してもらう必要があります。
障害厚生年金の場合
前述のように発達障害の場合には生来的はご病気ではありますが原則通り初めて医師の診断を受けた日が初診日となります。
このことから成人して働くようになってから(厚生年金加入中に)初めて医師の診断を受けるような場合があり、この場合には注意欠陥多動性障害( ADHD )も障害厚生年金の対象となります。
障害厚生年金には1級~3級までの等級がありますのである程度軽い病状の場合にも障害厚生年金3級の対象となる場合があります。
特に就労に支障が生じ職場で配慮を受けているような場合や上司の援助を受けているような場合には、障害厚生年金の受給可能性があります。
病歴就労状況等申立書の記載について
障害年金は、障害のために日常生活や就労に支障が生じている場合に受給できる年金ですので病歴・就労状況等申立書を記載する際にもこの病気の特徴である不注意・多動性・衝動性によって日常生活や就労にどれだけ支障が生じているのかと言った点に関して記載する必要があります。
また注意欠陥多動性障害(ADHD)は生来的はご病気であるため出生から現在までの様子について記載する必要があります。
(関連記事:病歴・就労状況等申立書の書き方)
注意欠陥多動性障害( ADHD )による障害基礎年金2級の受給事例
30代男性の注意欠陥多動性障害( ADHD )による受給事例
障害基礎年金2級決定
年金額 780,100円(子の加算224,500円)
(平成31年度の額)
ご相談
世田谷区にお住まいの30代男性から注意欠陥多動性障害( ADHD )での障害年金の受給の手続きについてご相談のお電話をいただきました。
初診日から現在までの様子について簡単に伺ったところ、現在から8年ほど前に初めて病院を受診し、注意欠陥多動性障害( ADHD )と診断されたとのことでした。
現在は就労行っているものの、障害者枠で一日5時間程度就労しているとのことでした。
注意欠陥多動性障害( ADHD )での障害年金の受給は一般的には難しいと言われていますが、お話を伺った範囲では受給の可能性があると考え面談を実施することとしました。
ご面談
出生から現在までに様子について詳しくお話をお伺いしたところ、幼少期から落ち着きがなく、音や光に敏感であったとのことで、初めて病院を受診したのは8年ほど前でそれ以前は病院を受診したことはないとのことでした。
現在は結婚されていてお子様もいらっしゃるとのことでした。就労は障害者枠で一日5時間ほどしか就労ができていないとのことでした。
自身では障害年金の受給は難しいのではないかと考えていましたが、ご家族から勧められ手続きをすることとしたとのことでした。
請求手続きのポイント
本件は障害者枠での就労でしたので、ご病気で就労がどのように支障が生じているのかといった点を詳しくご本人にお伺いし書面にし、担当医師に渡すこととしました。
また病歴就労状況等申立書の作成に当たっても、出生から現在までの様子について注意欠陥多動性障害( ADHD )の特性を踏まえ記述内容に留意することとしました。
その後完成した診断書とともに必要書類を提出することで手続きを完了し、障害基礎年金2級の受給決定を受けることができました(障害認定日当時は受診歴がなく遡及請求はできませんでした)。
本件の場合、現在受診されている病院が「大人の発達障害」に理解のある病院であったため、注意欠陥多動性障害( ADHD )の特性を踏まえた診断書の内容となっており、そのことが受給決定の大きな要因ともなりました。
注意欠陥多動性障害( ADHD )での障害年金の受給は一般的に難しい言われていますが、本件の請求手続きを通し当該ご病気でも病状や就労状況により障害年金の受給が可能であることが再確認されました。
※本件受給事例は個人情報保護法の趣旨に則って、文章の内容を作成しました。
【注意欠陥多動性障害(ADHD)による障害年金の受給事例】
藤沢市の40代女性の発達障害による障害基礎年金2級の受給事例