障害年金は、老齢年金や遺族年金と同じ公的年金で、傷病で日常生活や就労に支障が生じた場合に受給できる年金です。
また変形性股関節症などで痛みがある場合最終的に人工関節を挿入置換する治療が行われます。この場合治療により痛みが無くなるだけでなく障害年金の受給対象ともなります。
目次
障害年金とは
障害年金は前述のとおり一定の障害やご病気がある場合に厚生年金制度、または国民年金制度から支給される年金です。
障害年金の受給要件
障害年金を受給するためには障害年金の受給要件を満たす必要があります。障害年金の受給要件としては初診日の特定、保険料の納付要件、障害の程度をあげることができます。
初診日の特定
障害年金の手続きを行うためにはまず初めに当該病気の初診日を特定する必要があります。
初診日とは当該ご病気で初めて医師又は歯科医師の診察を受けた日を言います。人工関節置換の場合は膝の痛みが出て初めて医師の診察を受けた日が初診日となります。変形性股関節症などと病名が決まった日が初診日ではありません。
初診日を特定することで受給できる年金が厚生年金制度からか、国民年金制度からのどちらから受給できるかが決まります。
また後述の保険料の納付要件も特定された初診日を基準に判断されますのでこのことからもまず初めに初診日が特定される必要があります。
全身性エリテマトーデスでステロイドを使用しそのことが原因で股関節に異常をきたし人工関節を置換した場合は全身性エリテマトーデスによるステロイド治療と関節の異常には相当因果関係があると判断され、全身性エリテマトーデスの症状が出て初めて病院を受診した日が初診日となります。
保険料の納付要件
障害年金を受給するためには国民年金保険料の納付要件を満たしている必要があります。障害年金も一般的な入院保険と同じ性質を持っているため事前に一定の保険料を支払ってなければ受給することができません。
原則
初診日の前日において二十歳から初診日の属する月の前々日までの期間の内、保険料納付済期間と保険料免除期間を合算期間が全体の2/3以上である必要があります
特例
特例として初診日の属する月の前々月までの直近の一年間に国民年金保険料の未納がない場合には初診日に65歳未満であることを条件に保険料の納付要件を満たします
二十歳前に初診日がある場合
20歳前に初診日がある場合は国民年金に加入する義務がありませんので保険料納付要件は問われません(二十歳前傷病による障害基礎年金)。
等級に該当する病状
障害年金を受給するためには病状が障害年金によって定められた等級に該当する必要があります。
等級は障害年金の認定基準によって定められています。
人工関節を挿入置換した場合には原則として障害厚生年金三級に該当します。
人工関節を挿入置換した場合の初診日
障害年金の手続きにおける初診日とは当該ご病気によって初めて医師の診断を受けた日をいいます。
人工関節・人工骨頭を挿入したことによる障害年金の初診日は人工関節や人工骨頭を挿入置換した日ではなく、変形性股関節症などの原因となるご病気の症状が出て初めて医師の診断を受けた日となります。
障害認定日
障害認定日とは原則として初診日から1年6ヶ月後の日をいいこの日以降から障害年金の手続きを行うことができます。
一方で人工関節を挿入置換した場合の障害認定日には特例が設けられており、初診日から1年6ヶ月経過以前の場合に手術を行った場合には人工関節の挿入置換手術を行った日が障害認定日となります(1年6ヶ月経過後に手術を行った場合には原則通り初診日から1年6ヶ月後が障害認定日となります)。
この為人工関節を挿入置換した場合は1年6ヶ月を待つことなく手術後すぐに障害年金のお手続きを開始することが出来ます。
また手術後、障害年金を受給できることを知らずに障害年金のお手続きを行わず長期間経過してしまった場合にも手術の時まで遡って最大直近過去5年分まで含めて障害年金の請求を行うことができます(遡及請求)。
人工関節を挿入置換した場合の等級
原則障害年金3級
人工関節を挿入置換した場合は障害年金3級に該当します。このため原則として人工関節を挿入置換している場合には、その他の病状如何にかかわらず(たとえ特別な症状がない場合にも)障害年金3級に該当します。
一方で、3級の等級は障害厚生年金にしかなく、障害基礎年金にはありませんので、初診日の段階で働かれていて厚生年金または共済年金に加入していた場合には、障害厚生年金(3級)の対象となりますが、働かれていない場合や自営業、学生などで国民年金に加入していた場合には障害年金の対象とならない場合があります。
障害年金2級となる場合
一下肢の三大関節のうち一関節以上に人工関節の挿入置換手術を両下肢それぞれに行った場合は症状により障害等級2級に認定される可能性があります。
この場合は二下肢目に挿入置換手術を行ってから概ね1年以上経過している現症日の診断書をもって下記認定方法により認定を行います。
【認定方法】
次の1~3のすべての要件を満たす場合には2級以上に認定する。
①立ち上がる、歩く、片足で立つ、階段を上る、階段を下りるなどの日常生活動作が実用性に乏しいほど制限されていること。
②下肢障害の主な原因及び程度評価の根拠が自覚症状としての疼痛のみによるものではなく医学的、客観的にその障害を生ずるに妥当なものであること。
③下肢の障害の状態が行動量、気候、季節などの外的要因により一時的に大きく変動するものではなく永続性を有すること。
就労と障害年金の等級
人工関節を挿入置換している場合には原則として障害年金3級に該当します。
この場合によくあるご質問で「就労行っている場合には、障害年金の等級が低くなってしまう場合や障害年金自体が受給できなくなっている場合があるのではないか」ということですが、人工関節による障害年金の受給の場合には就労を行っている場合にも(たとえフルタイムで働かれている場合にも)障害年金を受給することができます。
50代女性の変形性股関節症による人工関節置換の受給事例
結果
障害厚生年金3級決定
年金額:585,100円
ご相談
10年ほど前より腰や股関節の痛みを感じ病院を受診しており、関節周辺の炎症ではないかと言われていた。
その後も腰や関節の痛みが残っていたため、病院を転院し、人工関節の置換術を勧められ、最近になって手術を行った。
その後、障害年金の受給が可能であることを知り、手続きを行おうとしたが、担当医師が診断書の作成を拒んでおり何とかならないものかと大変お困りの様子でした。
お手続きの経緯とポイント
診断書の作成
人工関節置換の手術を行った病院が障害年金の診断書の作成を拒んでいるとのことでしたが、弊所から診断書の作成依頼を行ったところ、特に拒む様子もなく受け付けてもらうことができました。
おそらく何らかの理由で担当医師が診断書の作成を拒んでいたのかもしれませんが、社会保険労務士が作成の依頼を行ったことで診断書の作成を行ってもらうことができました。
障害年金の請求において担当医の作成する診断書は最も重要な書面の一つで診断書が入手できない場合は障害年金の請求は認められません。
担当医が診断書の作成を拒む理由は色々あります。障害年金制度の理解不足、医師の固定観念、医師が忙しく診断書の作成まで手が回らない、障害年金の受給は患者の為にならないと考えている等です。
時にはただ面倒、割に合わないと考えているような場合もあります。
今回の場合は理由は定かではありませんが上述のように専門家が仲立ちしたことで人工関節置換の診断書を入手することが出来ました。
障害認定日
本件では、初診日から10年ほど経過しての手術でしたので障害認定日の特例は適用されず、原則通り障害認定日は初診日から1年6ヶ月後の日となり、障害認定日当時は人工関節の手術を行っていませんでしたので遡及請求を行うことができず事後重症請求となりました。
60代女性の両側変形性股関節症による人工関節置換による受給例
結果
障害基礎年金2級決定
年金額:780,100円
ご相談
両股関節に人工関節を挿入置換しているので、障害年金の受給を希望しているとのことでした。
一方で、年金事務所で相談したところ、人工関節は厚生年金に加入している時に初診日がないと受給できないと言われたが何とか障害年金を受給したいと強く希望されていました。
お手続きの経緯とポイント
人工関節挿入置換と障害基礎年金2級
原則として人工関節を挿入置換している場合は、障害厚生年金3級に該当しますが、歩行や階段の昇り降りなどを日常生活に支障が生じるほどの病状の場合には、障害基礎年金2級に該当する場合もあります。
【人工関節で2級に認定される要件】
①立ち上がる、歩く、片足で立つ、階段を登る、階段を下りるなどの日常生活活動が実用性に乏しいほど制限されていること
②下肢障害の主な原因および程度の評価の根拠が自覚症状として疼痛のみによるものではなく、医学的、客観的にその障害を生じるに妥当なものであること
③下肢障害の状態が行動量、気候、季節などの外的要因により一時的に大きく変動するものではなく永続性を有する
④二下肢目の挿入置換手術からおおむね1年以上経過している場合に現症日の診断書をもって上記の認定方法により認定を行う
診断書の作成依頼と請求手続き
本件の場合も屋内外での歩行や座る動作、階段の上り下りに著しい支障が生じていたことから、障害基礎年金2級に認定されるではないかと予想しました。
このため医師に診断書の作成依頼を行う際に事前には、ご本人からご病状について詳しくお話を伺いそれを書面にして診断書作成依頼状として先生にお渡しいただきました。
また、初診日から長期間経過していたことから初診日の特定に苦労しましたが、カルテの開示請求を行うことで幼少期に発達性の股関節脱臼がありコルセットを装着していた事実が判明したため、二十歳前傷病による障害基礎年金として障害基礎年金2級の受給決定を受けることができました。
社労士の所感
今回の事例は初診日の特定が難しい点、人工関節置換で障害年金2級の請求を行う点で難易度の高い請求でした。
一方で一つ一つ問題をクリアしていくことでゴールが見えてきたため諦めずにお手続きを進めることが出来ました。
まとめ
人工股関節置換は障害厚生年金3級に原則として該当します。
障害認定日は原則は初診日から1年6か月後の日を言いその日以降障害年金のお手続きを行うことが出来ますが、人工関節置換の場合は術日が障害認定日以前の場合は特例で術日が障害認定日となります。
歩行や階段の上り下り等の動作が日常生活に著しい支障が生じている場合で人工関節を2か所を置換している場合は障害年金2級に認定される場合もあります。
人工関節挿入置換による障害年金の受給事例