認知症も条件を満たすことで障害年金の対象となります。
障害年金は国民年金や厚生年金から支給される年金で一般に知られている老齢年金と同じ年金です。
認知症で初めて病院を受診した日(初診日)に厚生年金に加入していた場合は障害厚生年金、自営業者やサラリーマンの配偶者で国民年金に加入していた場合は障害基礎年金が支給されます。
目次
認知症とは
脳の働きが様々な原因で働かなくなってしまったり、脳の細胞が死んでしまったりすることで生活をしていく上での行動に支障が生じてしまう症状のことを認知症といいます。
かつては痴呆症などと呼ばれたこともありますが、現在は認知症という病名が一般的となっています。
加齢により、誰しも物忘れや行動の衰えが見られるものですが、一般的な加齢による物忘れとの事なり認知症は脳の神経細胞の劣化や破壊により物忘れや日常生活の行動力や記憶力の低下をもたらします。
また一般的な老化と異なり認知症の場合には本人に自覚がなく、また時間とともに進行してしまう特徴もあります。
認知症の種類
アルツハイマー型認知症
認知症の約60%を占めるのがアルツハイマー型認知症です。
アルツハイマー型認知症は海馬を中心として脳が萎縮してしまう特徴があり、女性が多く発症し物忘れ、徘徊、もの盗られ妄想などの症状があります。
初期の症状は記憶障害でその後各障害(症状)が現れ始めます。
レビー小体型認知症
脳内に異常なタンパク質であるレビー小体ができることで神経細胞が死滅してしまう認知症です。
アルツハイマー型認知症と異なり男性にやや多く(男性は女性の2倍)発症する認知症で認知機能の障害や幻視、幻聴、妄想、うつ状態、パーキンソン症状などの症状が現れます。
アルツハイマー病は脳の萎縮が見られますが、レビー小体型認知症の場合は必ずしも脳の萎縮が見られないことも特徴の一つです。
レビー小体型認知症はパーキンソン病の原因となることもあり、パーキンソン病の症状である小刻みの歩行や前かがみの姿勢などといった症状が現れる場合もあります。
脳血管性認知症
脳血管性認知症は、認知症の約15%を占めるといわれています。
脳血管性認知症の原因は脳梗塞や脳出血など脳内の血管に異常が生じることによって脳の神経細胞が死滅してしまうことが原因となり発症します。
脳血管性認知症は、脳のどの部分に脳梗塞が生じ脳神経が死滅したかでその症状も変わり、記憶障害、理解力・判断力の喪失、感情コントロールの不全などの症状が現れ、病状も良くなったり悪くなったりの繰り返しによって徐々に悪化していきます。
前頭側頭型認知症
前頭側頭型認知症は、前頭葉や側頭葉が萎縮することによって発症し、日常生活において、同じ行為を続ける、同じものを食べ続ける、同じ道順を歩き続けるなど同じ行為続けるという特徴があります。
前頭側頭型認知症は、認知症患者に占める割合としては多くありませんが、若年性認知症に多く見られ、40代の若い年齢層に発症することがあります。
認知症による障害年金の受給
年齢による制限
認知症も障害年金の対象となる傷病ではありますが、障害年金は高齢者を対象とする老齢年金とは異なり、若年層を対象に病気により障害になってしまった場合に支給されることを前提としています。
このため、年齢による制限があり認知症により初めて病院にかかった日(初診日)が65歳に達する日(65歳の誕生日の前々日)を過ぎている場合には受給することができません(厚生年金に加入中の場合または任意加入中の場合を除く)。
また65歳に達する日を過ぎている場合には認定日請求のみを行うことができ、事後重症請求を行うことはできません。また老齢基礎年金の繰上げ請求を行った場合には同様の制限があります。
このように認知症も障害年金の受給の対象となりますが、65歳以降に発症した認知症に関しては対象とならず、65歳以前に発症した認知症のみが障害年金の対象となります。
障害年金の受給要件
初診日の特定
障害年金を受給するためには初診日を特定する必要があります。
初診日の特定とは認知症によって初めて病院へ受診した日をカルテまたはカルテに基づく客観的な証拠によって証明することをいいます。
一般的には受診状況等証明書(初診日の証明書)を担当医師に作成してもらうことで行います。
保険料の納付要件
特定された初診日を基準として初診日以前の被保険者期間の3分の2以上の国民年金保険料を支払っているか、初診日以前直近の1年間国民年金保険料の未納がない場合には保険料の納付要件を満たしているといえます。
等級に該当する病状
認知症により障害年金を受給するためには障害認定基準によって定められた等級に該当する病状でなければなりません。
障害厚生年金の場合には1級~3級と障害手当金、障害基礎年金の場合には1級と2級の等級があります。
1級の病状とは一般的に日常生活に著しい支障が生じ他人の常時の介助が必要な場合を言います。
2級の病状等は日常生活に著しい支障が生じ、他人の介助が必要な場合をいいます。
3級の病状とは就労に著しい支障が生じている場合をいいます。また障害手当金の病状とは就労に支障が生じている場合をいいます。
ただ障害手当金は「障害が治った場合」に支給される一時金ですので、治ったという概念がない認知症の場合には支給の対象とはなりません。
診断書と病歴就労状況等申立書の重要性
診断書の重要性
障害年金の請求において担当医師が作成する診断書は、最も重要な書類の一つといえます。
認知症により障害年金を請求する場合には「精神の障害用の診断書用紙」を使用し、担当医師にその作成を依頼することとなります。
診断書の作成依頼する場合に重要なことは就労や日常生活のどの部分に支障が生じているのかという点を診断書の内容に反映してもらうということです。
診断書の各欄の記載が簡潔すぎる場合や空欄がある場合には病状が軽いと判断される場合がありますので注意が必要です。
また、精神の障害用の診断書の裏面には日常生活能力の判定と日常生活能力の程度の記載欄があり、それぞれのチェック欄があります。
日常生活能力の判定は(1)適切な食事(2)身辺の清潔保持(3)金銭管理と買い物(4)通院と服薬(5)他人との意思伝達及び対人関係(6)身辺の安全保持及び危機対応(7)社会性の七つの項目にわかれ、それぞれが病状によって4段階の評価対象となっています。
認知症の場合には、各項目すべてについて「自発的に行えない」場合や「助言や指導してもできない」場合があると思われますので実情を担当医師に明確に伝え適切にチェック欄にチェックを入れてもらうことが重要です。
各チェック欄は一つ一つに大きな意味を持ちますので、たった一つの項目の評価によって障害年金が受給できるかどうかが左右されことがあります。
また日常生活能力の程度については、(1)~(5)までの5段階で評価の対象となります。
少なくとも日常生活能力の程度の評価において(1)にチェックが入った場合には障害年金の対象となりませんので注意が必要です。
その他、診断書裏面⑪「現時の日常生活活動能力及び労働能力」の欄においても認知症により日常生活や労働に支障は生じている場合にはその旨を明確に記載してもらう必要があります。
病歴・就労状況等申立書の重要性
診断書に次いで重要な書類が病歴就労状況等申立書です。
診断書が原則としてその時点、その時点の病状を記載する「点」の役割を果たすのに対し、病歴就労状況等申立書は発病から現在までの病状、就労状況、日常生活状況などについて網羅的に記載する「点」を繋ぐ「線」の役割を果たします。
病歴就労状況等申立書は受診していた期間は通院期間、受診回数、入院していた場合には入院期間、治療経過、医師から指示された事項、転院した場合は転院の理由、受診していない場合はその理由とその期間の日常生活、就労状況等について過不足なく記載する必要があります。
また、「経済的に困窮しているから年金を受給したい」といったことを記載してしまう方もいらっしゃいますが病歴や就労状況と関係のない事項については記載すべきではありません。
一方で、「経済的に困窮していたためにやむなく就労を行っていた」といった事項はむしろ記載すべき事項ともいえます。