多発性硬化症(MS)は中枢神経の脱髄疾患で、神経を覆っている髄鞘が破壊され神経がむき出しとなってしまうことで神経の信号がうまく伝わらなくなってしまう病気です。
多発性硬化症(MS)も障害年金の対象傷病です。
多発性硬化症(MS)により障害年金を受給する際のポイントを解説いたします。
目次
多発性硬化症とは
多発性硬化症は前述のように神経を追っている髄鞘(ミエリン)が壊れて神経がむき出してなってしまう(脱髄)ことで生じる疾病です。
日本国内には約12,000人の患者がいるといわれています。発症年齢は20~30代と比較的若い年齢で発症する場合が多く、高齢者が発生するケースが少ないと言われています。
また男女比では男性よりも女性の患者が多く約1対2.5の割合と言われています。
多発性硬化症が発症する原因はまだはっきりと判っていませんが白血球やリンパ球と言った身体外部から侵入したウイルスや細菌から守る免疫系が自分の脳や脊髄(中枢神経組織)を攻撃してしまう自己免疫が原因ではないかと言われています(自己免疫疾患)。
多発性硬化症の症状は首を前に傾けると痺れが走る、熱い、冷たいの感覚がなくなる(感覚障害)、腕が痺れて動かせなくなる、歩行が困難になる(運動障害)、疲労感、眼が見えなくなる、尿が出づらくなる(漏らしてしまう、頻尿)、認知機能が低下する(記憶力の低下)、抑うつ気分、性機能障害等多岐に渡ります。
感覚障害、手足が動かしづらくなる運動障害、疲労感が特に多くみられる症状と言われています。
また多発性硬化症は症状の改善と悪化を繰り返す傾向があると言われています。
多発性硬化症による障害年金の受給
初診日の特定
初診日の重要性
障害年金の手続きにおいては初診日を特定する作業は大変重要な作業といえます。
初診日を特定することによってどの年金(国民年金、厚生年金)から年金が支給されるかが決定します。
また障害年金受給の重要な要件である保険料納付要件が満たされているかどうかも特定された初診日を基準に判断されます。
このことから初診日を特定できない場合には障害年金を受給することはできません。
多発性硬化症の初診日
一方で、多発性硬化症の初診日は多発性硬化症の病名が決定した日ではなく、当該ご病気の症状が現れ初めて医師の診断を受けた日となります。
このため、初めに運動障害が現れ、整形外科を受診し最終的に神経内科を受診し多発性硬化症と診断された場合は最初に受診した整形外科の受診が初診日となります。
一般的には初診日は受診状況等証明書を初診日の病院に作成してもらうことで行います。
一方、発病から現在まで長期間が経過している場合にはカルテか廃棄されている場合や病院自体が廃院している場合があり初診日の特定が困難になる場合があります。
カルテが廃棄されていたり病院自体が廃院している場合は他の客観的資料(診察券、レセプト、領収書、日記)により初診日を特定することになります。
障害認定基準の該当する病状
障害認定日および現在の病状
障害年金を受給するためには障害認定日(初診日から1年の6ヶ月後の日)および現在の病状が障害認定基準に定められた病状に該当する必要があります。
※事後重症請求の場合は現在の病状を記載した診断書のみが必要となります。
障害認定基準
障害年金を受給するためには下記の障害認定基準に病状が該当する必要があります。
1級・・・身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとする。
この日常生活の用を弁ずること不能ならしめる程度とは他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度のものである。
2級・・・身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活が著しい制限を受けるかまたは日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。
この日常生活が著しい制限を受けるかまたは日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは必ずしも他人の助けを借りる必要はないが日常生活は極めて困難で労働により収入を得ることができない程度のものである。
3級・・・労働が著しい制限を受けるかまたは労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。
また「傷病が治らないもの」にあっては労働が制限を受けるかまたは労働に制限を加えることを必要とする程度のものとする 国民年金令・厚生年金令別表より
多発性硬化症の主な病状は運動障害、感覚麻痺、疲労感を挙げる事が出来ますが、運動障害の場合には杖を使わなければ歩行に支障が生じるような状態の場合3級、杖を使っても歩行が困難で車いすを使用するような場合が2級または1級に認定される可能性があります。
また、下肢のみの麻痺(又は上肢のみ)よりも下肢および上肢に麻痺がある場合の方がより上位の等級に判定される傾向にあります。
担当医師が作成する診断書の重要性
障害年金を請求する上で担当医師が作成する診断書は最も重要な書類といえます。
このことから、現在の病状を反映した内容の診断書を取得する必要があります。
一方で、医師は診断の合間を縫って診断書を作成することや患者の病状を必ずしも全て十全に理解しているとは言えないことから診断書の作成を担当医師に依頼する際は、現在の病状を医師に正確に伝えるため事前に書面などを作成し手渡すなどの工夫が必要です。
多発性硬化症の診断書
多発性硬化症の運動障害がある場合には「肢体の障害用の診断書・様式第120号の3」の診断書を用います。
肢体の診断書の記載事項はどの項目も重要ですが、特に⑱「日常生活における動作の障害の程度」欄は現在の病状が反映されるように特に注意する必要があります。
⑱欄は補助用具を使用しない状態で「〇、〇△、△×、×」の四段階で判断する必要があります。
医師の中には補助用具使用した状態で記載してしまう場合もありますので注意が必要です。
また⑲「補助用具の使用状況」も補助用具使用している場合には必ず記載し、使用状況についても詳しく記載する必要があります。
病歴就労状況等申立書の作成
病歴就労状況等申立書は提出書類の中で診断書に次いで重要な書類といえます。
病歴就労状況等申立書は発病から現在までの様子を詳細に記載する必要があります。
多発性硬化症の場合には病状が改善する期間と悪化する期間が繰り返す場合がありますので、それらの病状の変化及び受診状況の変化、その時々の就労状況について記載する必要があります。