慢性疲労症候群(CFS)は明確な治療法が判っていないばかりか長期にわたって闘病生活を送らなければならない場合があり就労や日常生活に著しい支障が生じる疾病です。
このように慢性疲労症候群により就労や日常生活に支障が生じている場合にはその病状により障害年金を受給できる可能性があります。
目次
慢性疲労症候群(CFS)とは
慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome:CFS)は何の前触れもなく突然全身の倦怠感が生じまた脱力感や頭痛などの症状とともに精神神経症状を伴い就労や日常生活に著しい支障が生じる疾病です。
日本国内には慢性疲労症候群の患者は36万人いると言われています。
症状
全身倦怠、強度の疲労感、微熱、頭痛、筋肉痛、脱力感、抑うつ症状等
原因
慢性疲労症候群の原因はまだよく判っていません。
ストレスが原因ではないかと言われていますが、その他ウィルスや細菌、遺伝子異常、免疫異常、内分泌異常、神経学的な異常等が原因ではないかと言われています。
慢性疲労症候群の診断基準
慢性疲労症候群の臨床的な診断基準が厚生労働科学研究費補助金(障害者対策総合研究事業)(神経・筋疾患分野)「慢性疲労症候群の病因病態の解明と画期的診断・治療法の開発」研究班より以下のような基準が出されています。
【慢性疲労症候群(CFS)臨床診断基準(案) (2016年3月改訂)】
Ⅰ.6ヵ月以上持続ないし再発を繰り返す以下の所見を認める
(医師が判断し、診断に用いた評価期間の50%以上で認めること)
1. 強い倦怠感を伴う日常活動能力の低下*
2. 活動後の強い疲労・倦怠感**
3. 睡眠障害、熟睡感のない睡眠
4. 下記の(ア)または(イ)
(ア)認知機能の障害
(イ)起立性調節障害Ⅱ.別表1-1に記載されている最低限の検査を実施し、別表1-2に記載された疾病を鑑別する
(別表1-3に記載された疾病・病態は共存として認める)*:病前の職業、学業、社会生活、個人的活動と比較して判断する。体質的(例:小さいころから虚弱であった)というものではなく、明らかに新らたに発生した状態である。過労によるものではなく、休息によっても改善しない. 別表2に記載された「PS(performance status)による疲労・倦怠の程度」を医師が判断し、PS 3以上の状態であること。
**:活動とは、身体活動のみならず精神的、知的、体位変換などの様々なストレスを含む。別表1-1. ME/CFS診断に必要な最低限の臨床検査
(1) 尿検査(試験紙法)
(2) 便潜血反応(ヒトヘモグロビン)
(3) 血液一般検査(WBC、Hb、Ht、RBC、血小板、末梢血液像)
(4) CRP、赤沈
(5) 血液生化学(TP、蛋白分画、TC、TG、AST、ALT、LD、γ-GT、BUN、Cr、尿酸、 血清電解質、血糖)
(6) 甲状腺検査(TSH)、リウマトイド因子、抗核抗体
(7) 心電図
(8) 胸部単純X線撮影別表1-2. 鑑別すべき主な疾患・病態
(1) 臓器不全:(例;肺気腫、肝硬変、心不全、慢性腎不全など)
(2) 慢性感染症:(例;AIDS、B型肝炎、C型肝炎など)
(3) 膠原病・リウマチ性、および慢性炎症性疾患:
(例;SLE、RA、Sjögren症候群、炎症性腸疾患、慢性膵炎など)
(4) 神経系疾患:
(例;多発性硬化症、神経筋疾患、てんかん、あるいは疲労感を惹き起こすような薬剤を持続的に服用する疾患、後遺症をもつ 頭部外傷など)
(5) 系統的治療を必要とする疾患:(例;臓器・骨髄移植、がん化学療法、 脳・胸部・腹部・骨盤への放射線治療など)
(6) 内分泌・代謝疾患:(例;糖尿病、甲状腺疾患、下垂体機能低下症、副腎不全、など)
(7) 原発性睡眠障害:(例;睡眠時無呼吸症候群、ナルコレプシーなど)
(8) 精神疾患:(例;双極性障害、統合失調症、精神病性うつ病、薬物乱用・依存症など)別表1-3. 共存を認める疾患・病態
(1) 機能性身体症候群(Functional Somatic Syndrome: FSS)に含まれる病態線維筋痛症、過敏性腸症候群、顎関節症、化学物質過敏症、間質性膀胱炎、機能性胃腸症、月経前症候群、片頭痛など
(2) 身体表現性障害 (DSP-IV)、身体症状症および関連症群(DSM-5)、気分障害(双極性障害、精神病性うつ病を除く)
(3)その他の疾患・病態
起立性調節障害 (OD):POTS(体位性頻脈症候;postural tachycardia syndrome)を含む若年者の不登校(4)合併疾患・病態
脳脊髄液減少症、下肢静止不能症候群(RLS)
慢性疲労症候群による障害年金の受給
慢性疲労症候群により障害年金を受給するためには一般的な障害年金の受給要件(受給資格)を満たす必要があります。
障害年金の受給要件を満たすためには初診日を特定し、特定された初診日を基準に保険料の納付要件を満たしまた慢性疲労症候群の病状が障害認定基準に定められた等級に該当している必要があります。
初診日の特定
初診日の特定の重要性
初診日は保険料の納付要件の基準となるだけでなく、初診日の時点で国民年金に加入していた場合には国民年金から障害基礎年金、厚生年金に加入していた場合には厚生年金から障害厚生年金が支給されるなど、どの年金から障害年金が支給されるかの基準となるなど大変重要な意味を持っています
慢性疲労症候群の初診日の特定
慢性疲労症候群により障害年金の手続きを行う上で初診日を特定する作業は大変重要な作業といえます。
慢性疲労症候群は、病名が確定するまでにいくつも病院を受診したり初診日から現在まで長期間経過している場合があります。
このような場合には、初診日の病院にカルテが残っていない場合があり初診日の特定が難しくなる場合があります。
保険料の納付要件
障害年金も一般的な入院保険と同じように受給するためには事前に一定額の保険料を支払っている必要があります。
ここでいう保険料とは国民年金保険料を言い、特定された初診日を基準に初診日がある月の前々月までの被保険者期間の3分の2以上の保険料を支払っている(免除を受けている)か、直近の1年間に保険料の未納がない(免除を受けている)場合に保険料の納付要件を満たすこととなります。
初診日を基準に保険料の納付要件が満たされていない場合にはどんなに病状が重い場合でも当該ご病気で障害年金を受給することはできません。
障害認定基準の等級に該当する病状
障害年金を受給するためには障害認定基準によって定められた等級に該当する病状である必要があります。
障害認定基準
1級・・・身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとする。
この日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度とは他人の介助を受けなければほとんど自分の様を便ずることができない程度のものである。
例えば身の回りのことは辛うじてできるが、それ以上の活動はできないものまたは行ってはいけないもの、すなわち病院内の生活で言えば活動の範囲が概ねベッド周辺に限られるものであり、家庭内の生活で言えば活動の範囲が概ね就床室内に限られるものである。
2級・・・身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活が著しい制限を受けるかまたは日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。
この日常生活が著しい制限を受けるかまたは日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で労働により収入を得ることができない程度のものである。
例えば家庭内の極めて温和な活動(軽食作り、下着程度の洗濯等)はできるが、それ以上の活動はできないもの、または行ってはいけないもの、すなわち病院内の生活で言えば活動の範囲が概ね病棟内に限られるものであり、家庭内の生活で言えば活動の範囲が概ね家屋内に限られるものである。
3級・・・労働が著しい制限を受けるかまたは労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。
また傷病が治らないものにあっては労働が制限を受けるかまたは労働に制限を加えることを必要とする程度のものとする(傷病が治らないものについては障害手当金に該当する程度の障害の状態がある場合であっても3級に該当する)。
診断書の重要性
障害年金の障害認定基準の等級に慢性疲労症候群の病状が該当しているかどうかの判断において、担当医師が作成する診断書は最も重要な書類といえます。
慢性疲労症候群の場合には「様式第120号の7その他の障害用」の診断書の用紙を用います。
診断書の内容の内「⑫一般状態区分表」の欄は特に重要で、ア~オの5段階で病状を判断するようになっていますが、イに該当する場合は3級、ウ・エに該当する場合は2級、オに該当する場合は1級に認定される可能性があると大まかに言うことが出来ます。
また、診断書の作成を医師に依頼する際は、医師は必ずしも日常生活の細かい病状について理解していない場合がありますので、できるだけ明確に日常生活や就労のどのような部分に支障が生じているのかを医師に伝える必要があります。
照会様式について
慢性疲労症候群により障害年金の手続きを行う場合には他の疾病とは異なり、慢性疲労症候群の照会様式に基づき診断書の⑨「現在までの治療の内容を期間、経過その他参考となる事項」欄に照会様式の重症度分類に基づくステージ(PS0~PS9)を記載する必要があります。
【重症度分類】
PS0:倦怠感がなく平常の社会生活ができ、制限を受けることなく行動できる
PS1:通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、疲労を感ずるときがしばしばある
PS2:通常の社会生活ができ、労働も可能であるが、全身倦怠感のため、しばしば休息が必要である
PS3:全身倦怠感のため、月に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である*1
PS4:全身倦怠感のため、週に数日は社会生活や労働ができず、自宅にて休息が必要である*2
PS5:通常の社会生活や労働は困難である。軽労働は可能であるが、週のうち数日は自宅にて休息が必要である*3
PS6:調子の良い日には軽労働は可能であるが、週のうち50%以上は自宅にて休息している
PS7:身の回りのことはでき、介助も不要であるが、通常の社会生活や軽労働は不可能である*4
PS8:身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助がいり、日中の50%以上は就床している*5
PS9:身の回りのこともできず、常に介助がいり、終日就床を必要としている
「疲労・倦怠感の具体例(PSの説明) 」
*1 社会生活や労働ができない「月に数日」には、土日や祭日などの休日は含まない。また、労働時間の短縮など明らかな勤務制限が必要な状態を含む。
*2 健康であれば週5日の勤務を希望しているのに対して、それ以下の日数しかフルタイムの勤務ができない状態。半日勤務などの場合は、週5日の勤務でも該当する。
*3 フルタイムの勤務は全くできない状態。
ここに書かれている「軽労働」とは、数時間程度の事務作業などの身体的負担の軽い労働を意味しており、身の回りの作業ではない。*4 1日中、ほとんど自宅にて生活をしている状態。収益につながるような短時間のアルバイトなどは全くできない。ここでの介助とは、入浴、食事摂取、調理、排泄、移動、衣服の着脱などの基本的な生活に対するものをいう。
*5 外出は困難で、自宅にて生活をしている状態。日中の50%以上は就床していることが重要。
旧厚生労働省研究班「慢性疲労症候群」重症度分類より