躁うつ病(双極性感情障害)の症状の特徴は「気分の波に幅がある」という点です。
躁うつ病(双極性感情障害)はこの気分の波の幅の程度によって、双極性感情障害Ⅰ型と双極性感情障害Ⅱ型に分類されます。障害年金を請求する手続きにおいてもこの点について留意しながら手続きを進める必要があります。
目次
躁うつ病(双極性感情障害)の特徴
双極性感情障害の特徴は躁状態とうつ状態の気分の波があることです。この気分の波の振幅の幅の違いにより躁状態とうつ状態を繰り返すのがⅠ型の双極性感情障害で軽躁状態とうつ状態を繰り返すのがⅡ型の双極性感情障害です。
軽躁状態と躁状態の違いは明確に区別することは難しい部分もありますが、躁状態によって日常生活に著しく支障をきたしている場合には躁状態で躁状態ではあるが日常生活に著しく支障を生じるまではいかない状態が軽躁状態と区別することができます。
双極性感情障害Ⅰ型に於ける躁状態は他人が見た場合に明らかに通常と違うと分かるもので例えば、通常と異なり明らかに高揚した状態になったり、ものすごい勢いで一方的にしゃべったり話の内容に一貫性がない場合や気が大きくなって高額な買い物をしたり、多額の借金をしたりする場合を挙げることができます。
一方で、双極性感情障害Ⅱ型の軽躁状態の場合には一見通常と異ならないように見え多少気分が高揚しているようにしか見えない程度の場合もあります。
躁うつ病(双極性感情障害)の障害認定基準と認定要領
障害認定基準
1級・・・躁うつ病(双極性感情障害)によるものにあっては高度の気分、意欲・行動の障害及び高度の思考障害の病相期があり、かつ、これが持続したり頻繁に繰り返したりするため常時の介護が必要なもの
2級・・・躁うつ病(双極性感情障害)によるものにあっては気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、かつこれらが持続したりまたは頻繁に繰り返したりするため日常生活が著しい制限を受けるもの
3級・・・躁うつ病(双極性感情障害)によるものにあっては気分、意欲・行動の障害及び思考障害の病相期があり、その病状は著しくないが、これら持続したりまたは繰り返し労働が制限を受けるもの
認定要領
躁うつ病(双極性感情障害)は本来症状の著名な時期と症状の消失する時期を繰り返すものである。従って現症のみによって認定することは不十分であり、症状の経過及びそれによる日常生活活動等の状態を十分考慮して認定する。
日常生活能力等の判定にあっては身体的機能及び精神的機能を考慮の上、社会的な適応性の程度によって判断するよう努める。
また現に仕事に従事しているものについては労働に従事していることを持って直ちに日常生活能力が向上したものととらえず、その療養状況を考慮するとともに、仕事の種類、内容、就労状況、仕事場で受けている援助の内容、他の従業員との意思疎通の状況等を十分考慮した上日常生活能力を判断すること。
躁うつ病(双極性感情障害)の請求のポイント
診断書は最も重要な書類の一つです
躁状態について
障害年金を請求するに当たって担当医師が作成する診断書は、最も重要な書類の一つです。このことから、躁うつ病(双極性感情障害)で障害年金を請求する場合には躁うつ病(双極性感情障害)の病気の特徴を踏まえて就労や日常生活にどれだけ支障が生じているかという点を診断書に反映してもらう必要があります。
双極性感情障害Ⅱ型の場合には、躁状態の時には一見通常と変わらないように見えたり、日常生活に支障が生じていないように見える場合もあります。このような状態を診断書に記載しても病状の実態を反映した診断書になっているといえません。
さらに双極性感情障害Ⅰ型の躁状態の場合には、気分が大きくなり、高価な買い物をしてしまったり多額の借金をしてしまうようなことがありますので、このような点を十分診断書に反映してもらう必要があります。
うつ状態について
また双極性感情障害Ⅰ型とⅡ型に共通しているうつ状態の場合には意欲低下や閉居状態、朝起きられない、抑うつ気分、頭痛などの症状以外に希死念慮や自殺企図、入院などがある場合はこのような点を十分に診断書に記載してもらう必要があります。
特に入院中の場合には、障害年金出来る場合が多いといえますので、この点も十分考慮に入れる必要があります。
日常生活能力の判定及び程度について
診断書裏面の日常生活能力の判定および日常生活能力の程度の記載については、十分注意する必要があります。
担当医師は患者と日常生活を共にしているわけではありませんので、時として主観によって診断書を作成してしまう場合もあります。
このことから、日常生活や就労に支障が生じている場合はその旨を担当医師に伝え診断書に反映してもらう必要があります。
初診日の特定についての注意点
障害年金を請求するに当たって最も重要な点の一つは、初診日を特定する作業です。
初診日を特定する作業は受給できる年金(国民年金か厚生年金)を決定することや保険料の納付要件を確認する必要があるためで初診日が特定できない場合には障害年金を受給することができません。
躁うつ病(双極性感情障害)の場合初診日は躁うつ病(双極性感情障害)と診断された日ではなく、何か症状が出て初めて病院を受診した日が初診日となります。
例えば、不眠症で病院を受診した後、しばらくして双極性感情障害と診断された場合には不眠症で初めて病院を受診した日が初診日となります。
また、初めは神経症で神経内科を受診していたところ、精神科に転院し双極性感情障害と診断された場合には神経症で神経内科を初めて受診した日が初診日となります。
遡及請求する場合の注意点
障害年金は最大で5年間さかのぼりで年金を受給することができます。一方で、遡及(さかのぼり)請求が認められない最も多い理由の一つは遡りの5年間に就労を行っていることです。
就労を行っているという一点で障害年金が受給できないということにはなりませんが、精神の病気の場合には多くの場合に就労しているということは病状が軽く回復している時期があったと看做されます。
このことから、もし遡及(さかのぼり)請求を行う場合で厚生年金や共済年金に加入している期間がある場合でその期間は籍を置いていただけでほとんど就労は行っていなかった場合にはその旨を詳細に病歴・就労状況等申立書に記載する必要があります。
40代男性の躁うつ病(双極性感情障害)ので障害厚生年金の受給事例
結果
障害厚生年金3級決定
年金額 642,400円
さかのぼり額 204万4,800円
ご相談
現在、躁うつ病(双極性感情障害)と診断され病院を受診中とのことでご本人の奥様からご相談のお電話をいただきました。
現在就労もできない状態とのことで障害年金の手続きの代行を依頼したいとのことでした。
最近の病状について伺ったところ2年ほど前に自殺未遂を起こし病院に運ばれたとのことで、現在は一日横になっていることもあるとのことでした。
最初に病院にかかった頃のことを伺ったところ、現在から5年ほど前に仕事のストレスから抑うつ状態となり、最寄りの病院を受診したとのことでした。
初診日以前の保険料の納付状況について伺ったところ、「継続して厚生年金に加入しているため、保険料の未納はないと思う」とのことでした。このことからご面談を実施し、さらに詳しくお話を伺うこととしました。
ご面談
発病からの様子
ご本人は体調不良のため奥様とのご面談となりました。
発病から現在までで様子を伺ったところ、現在から10年ほど前に仕事のストレスから体調不良となったとのことでした。
その後今から5年ほど前に職場が異動となったことに伴い、ストレスがたまり抑うつ状態となったため最寄りの病院を受診したのことでした。
受診の結果適応障害・広汎性発達障害と診断され投薬治療を開始したとのことでした。
その後、精神以外の病気にもかかったため、ストレスが増大し、独り言や大きな声で叫ぶような状態となり、会社も休みがちになったとのことでした。さらにこの頃大量に薬を飲んだため休職となったとのことでした。
その後も月1回受診し投薬治療継続するものの病状は悪化し、うつ状態となり一日中横になるようになったとのことでした。
転院と復職
また、担当医師にこの頃入院を勧められたものの様子を見ることとし、一度転院することとしました。
転院後も投薬治療を継続したものの病状はあまり改善しなかったとのことでした。
その後、受診と並行してリワークプログラムに参加するようになりその後一旦復職しましたが継続することができませんでした。
また、2年ほど前に自殺未遂を起こし救急車で運ばれ、その後会社を解雇になったとのことでした。
現在は、躁うつ病(双極性感情障害)と診断され病状が改善せず抑うつ状態の時はほとんど外出できないが躁状態になると物事はっきり言うようになり対人関係でトラブルになってしまうとのことでした。
また、最近は、一日中横になってることも多く家族の介助が不可欠になっているとのことでした。
障害認定日(初診日から1年6ヶ月後の日)の受診について伺ったところ二番目に受診した病院を継続して受診していたとのことでしたので、当時の診断書を入手することで遡りでの請求が可能となる旨をご説明しました。
請求手続き
初診日の病院と障害認定日及び現在受診している病院が異なるため受診状況等証明書(初診日の証明書)と診断書の依頼が別々の病院になりましたが、奥様がそれぞれの病院に作成依頼を行うとのことでした。
このため、現在受診している病院にはご面談時に伺った内容をもとに担当医師への依頼状を弊所にて作成しました。
担当医師は患者と生活をともにしている訳ではありませんので患者の病状を必ずしもすべて正確に把握してるとは言えません。
このため、現在の病状よりも診断書の内容が軽くなってしまう場合があります。そこでご面談時に伺った内容をもとに依頼状を作成することで、現在の病状を反映した診断書を入手することが可能となります。
その後、完成した受診状況等証明書及び二通の診断書の内容を確認しましたが、特に修正すべき箇所はありませんでした。このため、ご面談時に伺った内容をもとに弊所にて病歴就労状況等申立書を作成しました。
本件の場合さかのぼりでの請求(遡及請求)であったため、障害認定日当時の病状と障害認定日から現在までの病状及び受診状況、就労状況について過不足なく記載しました。
その後、他の必要書類とともに提出することで手続きを完了し、数ヶ月後に障害厚生年金3級のさかのぼりでの受給決定を受けることができました。
請求手続きのポイント
本件では障害認定日(初診日から1年6ヶ月後の日)以後3ヶ月以内に病院を受診していたことから、さかのぼりでの請求(遡及請求)を行うことができました。
また、初診時の病名が広汎性発達障害・適応障害でありましたが、躁うつ病(双極性感情障害)の初診日として認められました。
広汎性発達障害と躁うつ病(双極性感情障害)の間に相当因果関係があるかどうかについては、疑いの余地がないとは言えませんが適応障害の診断がくだされていることから当時の受診が初診日と認められました。
また本件の場合は残念ながら障害厚生年金2級ではなく、障害基礎年金3級の認定となりました。
3級と認定された考えられる理由は障害認定日から現在までの間にリワークプログラムを経て、一旦復職している点を挙げることができます。
また診断書の内容もどちらかといえば障害厚生年金3級に認定される内容となっていたことも理由の一つとなると思われます。
精神のご病気の場合には就労行っている場合にはその期間病状が改善していたと判断される場合があります。
さかのぼりでの請求(遡及請求)の場合には、障害認定日から現在まで継続して病状が障害年金の等級に該当する病状でなければ認められません。
このことから、一時的といえども復職していたことが障害厚生年金3級と認定された理由の一つと思われます。
※本件受給事例は個人情報保護法の趣旨に沿って文章の内容を作成しています。
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