肝硬変はその病状により障害年金の対象となる疾患です。
肝硬変にはB型肝炎ウィルス・C型肝炎ウィルスによるウィルス性肝硬変、自己免疫性肝炎による肝硬変、アルコール性肝硬変、胆汁うっ滞性肝硬変、代謝性肝硬変(ウィルソン病、ヘモクロマトーシス)等があります。
目次
肝硬変による障害年金の受給
肝硬変により障害年金を受給するためには一般的な障害年金の受給要件を満たす必要があります(受給資格)。
一般的な障害年金の受給要件を満たすためには初診日を特定し、特定された初診日を基準に保険料の納付要件を満たし、肝硬変の病状が障害認定基準の等級に該当する必要があります。
初診日の特定
初診日とは
初診日とは肝硬変によって初めて医師の診断を受けた日をいます。
肝硬変と診断された日ではなく、肝臓の異常を感じまたは健康診断で異常が発見され、初めて医師の診断を受けた日が初診日となります。
初診日の重要性
初診日は障害年金の手続きにおいて大変重要な意味を持ちます。
障害年金には、障害基礎年金と障害厚生年金の区別がありますが、どちらの年金から障害年金が支給されるが初診日を基準に判断されます。
初診日の段階で国民年金に加入していた場合には国民年金から障害基礎年金が支給され、厚生年金に加入していた場合には厚生年金から障害厚生年金が支給されます。
障害基礎年金には、1級と2級しかないため、2級以上の病状に該当しない場合には、障害年金を受給することができません。
一方で、障害厚生年金には、1級と2級以外に3級(障害厚生年金3級)と障害手当金がありますので、ある程度軽度の障害の場合にも障害年金を受給できる場合があります。
初診日の特定方法
初診日の特定方法は一般的には初診時に受診した病院にカルテに基づいて受診状況等証明書(初診日の証明書)を作成してもらうことで行います。
一方で、初診日から長期間が経過してしまった場合にはカルテが廃棄されてしまったり病院自体が廃院している場合があります。
この場合には初診の病院にカルテに基づいて受診状況等証明書を作成してもらうことができません。
この場合には2番目、3番目またはそれ以降に受診した病院のカルテに初診時の経緯(病院名、日付など)が記載されている場合にはそのカルテの記載に基づいて受診状況等証明書を作成してもらうことで初診日の特定を行うことができます。
保険料の納付要件
肝硬変により障害年金の手続きを行うためには保険料の納付要件を満たしている必要があります。
初診日がある月の前々月までの被保険者期間の3分の2以上の国民年金の保険料を支払っている(免除を受けている)か、65歳未満の場合で初診日がある月の前々月までの直近の1年間に国民年金の保険料の未納がない場合には保険料の納付要件を満たしていることになります。
障害認定基準の等級に該当する病状
肝硬変により障害年金を受給するためには肝硬変が障害認定基準の等級に定められた病状に該当している必要があります。
障害認定基準(認定要領)
障害認定基準には以下の大まかな基準が設けれています。下記の病状に該当するかどうかはさらに認定要領で定めれれている【検査項目】【昏睡度分類】【一般状態区分表】などによって判断されます。
肝硬変による障害の程度は自覚症状、他覚所見、検査成績、一般状態、治療及び病状の経過、具体的な日常生活状況等により総合的に認定するものとし、当該疾病の認定の時期以後少なくとも1年以上の療養を必要とするものであって
1級・・・長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のもの
2級・・・日常生活が著しい制限を受けるかまたは日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
3級・・・労働が制限を受けるかまたは労働に制限を加えることを必要とする程度のもの
国民年金・厚生年金令別表より
【検査項目】
検査項目/臨床所見 | 基準値 | 中度異常 | 高度異常 |
血清ビリルビン(mg/dl) | 0.3~1.2 | 2.0~3.0以下 | 3.0超 |
血清アルブミン(g/dl) | 4.2~5.1 | 3.0以上3.5以下 | 3.0未満 |
血小板数(万/μl) | 13~35 | 5以上10未満 | 5未満 |
プロトロンビン時間(PT)(%) | 70超~130 | 40以上70以下 | 40未満 |
腹水 | 腹水あり | 難治腹水あり | |
脳症 | Ⅰ度以上 | Ⅱ度以上 |
【昏睡度分類】
昏睡度 | 精神症状 | 参考事項 |
Ⅰ | 楽天的で気分が良い状態であったり、抑うつ状態になる。だらしなく気にとめない態度をとる。 | – |
Ⅱ | 時間や場所を正しく認識できない(指南力障害)。物を取り違え混乱する。異常行動がある。(例:お金をまく、化粧品をごみ箱に捨てるなど)意識が薄くうとうとした状態ではあるが普通の呼びかけで起きる、会話もできる(傾眠状態)。無礼な言動があったりするが、他人の指示には従う態度を見せる。 | 興奮状態がない。尿便失禁がない。手のひらを下向きにしたまままっすぐ体の前に腕を出した状態で、手のひらを上にあげたときにパタパタと動く(羽ばたき振せん)。 |
Ⅲ | しばしば興奮状態、または脅迫的な思考や幻覚・錯覚を伴い、反抗的態度を見せる。眠ってはいけない時間や場所で寝てしまい、刺激への反応も鈍い(嗜眠状態)。揺さぶる、顔を叩くなどの刺激で起きるが、他人の指示には従わない、または従えない(簡単な命令には応じえる)。 | 羽ばたき振せんがある。時間や場所をほとんど正しく認識できない(指南力障害高度)。 |
ⅳ | 寝たままで動かず、痛みや刺激に反応するが起きない(昏眠)。 | 刺激に対して払いのける動作、顔をしかめるなどの動きがみられるが起きない。 |
Ⅴ | 痛み刺激にも全く反応しない(深昏眠)。 | – |
【一般状態区分表】
(ア)・・・無症状で社会生活ができ、制限を受けることなく発病前と同等に振る舞えるもの。
(イ)・・・軽度の症状があり、肉体労働は制限を受けるが、歩行、軽労働や座業はできるもの。例えば軽い家事、事務など
(ウ)・・・歩行や身の回りのことはできるが、時に少し介助が必要なこともあり、軽労働はできないが、日中の50%以上は起居(立ったり座ったりの生活)をしているもの。
(エ)・・・身の回りのある程度のことはできるが、しばしば介助が必要で、日中の50%以上は就床しており、自力では屋外への外出がほぼ不可能となったもの。
(オ)・・・身の回りのこともできず、常に介助を必要とし、終日就床をしなければならず、活動の範囲が概ねベッド周辺に限られるもの。
【検査項目】【昏睡度分類】【一般状態区分表】をふまえた肝硬変の障害認定基準
1級・・・【検査成績】及び【臨床所見】のうち、高度異常を3つ以上示すもの。または一般状態区分表の(オ)に該当し、検査成績及び臨床所見のうち高度異常を2つ及び中度の異常を2つ以上示すもの
2級・・・【一般状態区分表】の(エ)または(ウ)に該当し、【検査成績】及び【臨床所見】のうち、中度異常または高度の異常を3つ以上を示すもの。
3級・・・【一般状態区分表】の(ウ)または(イ)に該当し【検査成績】及び【臨床所見】のうち、中度異常または高度の異常を2つ以上示すもの
※アルコール肝硬変の場合は180日間アルコールを摂取していない場合で継続して治療が行われている場合でないと障害年金の対象となりません。