知的障害での障害年金の手続きについての忘れてはいけない事項、ポイントとなる事項について経験を踏まえながらお伝えしたいと思います。
目次
知的障害とは
知的障害の定義と原因
知的障害とは、知的な能力(知能)や適応行動において、平均よりも著しく低い水準にある状態を指します。これは医学的・心理学的な診断名であり、以下のような原因があります。
知的障害の原因は多岐にわたりますが、主なものとして①遺伝的要因(例:ダウン症)②出生前の影響(例:妊娠中の感染や薬物)③出産時のトラブル(例:酸素不足)④生後の脳障害(例:事故、病気など)
重症度の分類としてはおおむね以下のように分類されます
軽度・・・IQが50~69で学習に支援が必要だが、簡単な作業は可能で多くは社会生活も可能です
中度・・・IQ35~49で日常生活にかなりの支援が必要で特別な教育と訓練も必要です。
重度・・・IQ34~20で会話や基本的な自己管理にも支援が必要となります。
知的障害と発達障害の違い
知的障害は全般的な知能が低くIQも明確に低いです。適応行動も困難となることが多いです。
一方、発達障害の場合は知的能力は平均的でも、社会性・コミュニケーションなどに偏りがあることが多くIQも平均以上または大変高い場合もあります。
特定の場面や行動で困難となる場合があり他者とのコミュニケーションが難しい、忘れ物や遅刻が多い、相手の感情が読めない、マルチタスクが苦手、感覚過敏といった特徴があります。
知的障害による障害年金の請求
障害年金の受給要件
初診日の特定
障害年金を受給するためには初診日を特定する必要が原則としてあります。
初診日とは当該ご病気で初めて医師の診察を受けた日を言います。病名が決まった日ではありません。
一方で知的障害の場合は生来的なご病気(障害)ということで特例として誕生日(生まれた日)が初診日となります。
医師の中には初診日が誕生日となるのはおかしいのではないかと、おしゃる先生もいらっしゃいますが、そのような場合には、障害年金の手続き特有のルールであると懇切丁寧に説明することで 正しい日付(誕生日)を診断書に記載してもらうことが可能となります。
上記のように知的障害の場合は初診日が誕生日となるため支給される年金は国民年金から障害基礎年金が支給されます。
保険料の納付要件
障害年金を受給するためには通常保険料の納付要件を満たす必要があります。
障害年金の保険料納付要件とは原則として初診日の前日において、次のいずれかの要件を満たしていること(保険料納付要件)が必要です。
①初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の3分の2以上の期間について、保険料が納付または免除されていること
②初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの1年間に保険料の未納がないこと
一方で知的障害の場合は初診日が誕生日(生まれた日)という特別な扱いを受けるため、初診日以前に保険料の納付義務がありません。このため保険料の納付要件は当然に満たしていることとなります。
このため仮に二十歳を何年も過ぎて国民年金保険料を長期間納めていない場合でも知的障害による障害年金の保険料納付要件は満たしていることとなります。
障害認定日の特殊性
一般的には障害年金の障害認定日は、初診日から1年6ヶ月後の日または症状が固定した日を言いますが、知的障害の場合には20歳の誕生日の前日が障害認定日として取り扱われます。
また、障害認定日の診断書も一般的には障害認定日以後3ヶ月以内の病状を記載したものが必要となりますが、知的障害の場合には20歳の誕生日前後3ヶ月計6ヶ月以内の病状を記載した診断書を提出することになります。
弊所にご依頼がある知的障害によるお手続きにおいては、20歳を過ぎた方からのご依頼も多くあります。
これらの方々は20歳の誕生日から障害年金を受給できたにもかかわらず制度をご存知なかったためにお手続きを行わずに来たため、多額の障害年金を受給しそこなってしまった方々がほとんどです。
障害年金の制度がもっと公に広報され障害年金を受給すべき時に受給すべき方が受給できるような制度にすべきであると思われます。
障害の等級
知的障害による障害年金の受給には障害の程度により下記のような等級分けが行われています。
1級・・・知的障害があり、食事や身のまわりのことを行うのに全面的な援助が必要であって、かつ、会話による意思の疎通が不可能か著しく困難であるため、日常生活が困難で常時援助を必要とするもの
2級・・・知的障害があり、食事や身のまわりのことなどの基本的な行為を行うのに援助が必要であって、かつ会話による意思の疎通が簡単なものに限られるため、日常生活にあたって援助が必要なもの
知的障害は障害基礎年金から支給されるといいましたが障害基礎年金は1級と2級しかないため(障害厚生年金は1級・2級・3級・障害手当金があります)2級以上の障害がない場合は障害年金の対象外となります。
等級とIQの関係ではおおむねIQ50以下の場合は1級または2級に認定される可能性があります。
一方でIQ70以下の場合は日常生活状況や援助の程度により障害年金の対象となる場合がります。
知的障害による障害年金の請求と診断書
診断書の重要性
知的障害による障害年金の請求において担当医師の作成する診断書は大変重要です。
特に近時障害年金の審査が厳密になっていますので診断書作成時は日常生活や就労のどの部分に支障が生じているのかを診断書に記載してもらう必要があります。
診断書には各チェック欄、記述欄がありますが各チェック、記述はそれぞれ綿密、厳密に判断されます。このため出来ないこと、出来ることを明確かつ正確に記載する必要があります。
診断書の内容
診断書裏面日常生活能力の判定は
(1)適切な食事(配膳などの準備も含めて適量をバランスよく摂ることがほぼできる)
※自分で食事が作れるか、栄養バランスを考えて献立が作れるか、インスタントラーメンは作れるか、リンゴの皮は剥けるか、食事は自発的にできるか、3食規則正しく食べることが出来るか等を判断材料とします
(2)身辺の生活保持(洗面、洗髪、入浴等身体の衛生保持や着替え等できる。また、自室の掃除や片付けができるなど)
※身なりに気を配ることはできるか、部屋の掃除は一人でできるか、布団干しは一人で出来るか、洗濯はためずにその都度できるか、一日中寝巻で過ごすことはないか、入浴は一人で自発的にできるか等を判断材料とします
(3)金銭管理と買い物(金銭を独力で適切に管理し、やりくりがほぼできる。また、一人で買い物が可能であり計画的な買い物がほぼできる)
※金銭管理は一人で出来るか、衝動買いはないか、家賃・光熱費・食費の管理は自分で出来ているか、借金はあるかまたはあったか、借金の整理をしたことはあるか等を判断材料とします
(4)通院と服薬(原則的に通院や服薬を行い、病状を主治医に伝えることができるなど)
※一人で通院で来る、予約通りに病院へ行ける、予約を守れないことがある、医師に必要なことを伝えられる、通院に支障が生じることがある、服薬の管理を一人で出来る、薬の飲みすぎがある等を判断材料とします
(5)他人との意思伝達及び対人関係(他人の話を聞く、自分の意思を相手に伝える、集団的行動が行えるなど)
※人との会話を気軽にできる、他人に会うことにできる、家族と問題なく話ができる、電話を問題なく使える、集団で行動が出来る
(6)身辺に安全保持及び危機対応(事故などの危険から自己を守る能力がある、通常と異なる事態となった時に他人に援助を求めるなどを含めて適正に対応することが出来るなど)
※交通事故を起こしたことがある、自動車を運転できる、火や電気、ガスの消し忘れがある、刃物を安全に使える、緊急時に適切に一人で対応できるまた他人に援助を求めることが出来る等を判断材料とします
(7)社会性(銀行での金銭の出し入れや公共施設等の利用が一人で可能。また、社会生活に必要な手続きが行えるなど)
※電車やバスに乗れるまた満員電車にも乗れる、電車やバスの乗り換えが一人で出来る、人混みが苦手である、役所に一人で行って手続きが出来る、窓口で係の人とやり取りが出来る、ATMは一人で使える、マイナンバーカードを自分で管理できる等を判断材料とします
上記7項目のチェック欄があります。
各チェック欄はそれぞれA.出来るB.おおむねできるが時に助言や指導が必要C.助言や指導があればできるD.助言や指導をしてもできないまたは行わないの4段階に分かれそれぞれ医師が障害の程度を判断しチェックします。
日常生活能力の程度は(知的障害)の欄にチェックをいれます。
(1)知的障害を認めるが社会生活は普通にできる
(2)知的障害を認め家庭内の日常生活は普通にできるが社会生活には援助が必要
(3)知的障害を認め家庭内の単純な日常生活はできるが時に応じて援助が必要である
(4)知的障害を認め日常生活における身のまわりのことも、多くの援助が必要である
(5)知的障害を認め、身のまわりのこともほとんどできないため常時の援助が必要である
上記(1)~(5)の内該当するものに〇をします。日常生活や就労にどの程度支障が生じているかを判断し適正な場所にしるしをする必要があります。
⑪欄現症時の日常生活活動能力および労働能力の欄は日常生活や就労時にどの点に支障が生じているかどのようなサポートを受けているかを要点をまとめて記載する必要があります。一人では出来ないものを一人で出来ると記載することは避けなければいけません。
知的障害による障害年金のその他のポイント
就労していても受給可能
障害年金の審査において就労していることで病状が軽いと判断され、障害年金の受給が認められない場合もあります。
一方で、知的障害の場合には就労している場合にも職場での上司や同僚の援助を受けながら就労している場合等には、障害年金を受給できる場合が多くあります。
精神の障害にかかる等級判定ガイドラインにも下記のように規定されています。
「労働に従事していることを持って直ちに日常生活能力が向上したものととらえず、現に労働に従事しているものについてはその療養状況を考慮するとともに、仕事の種類内容を就労状況を仕事場で受けている援助内容の他の従業員との意思疎通の状況などを十分確認した上で日常生活能力を判断する。」
と一般的に規定した上で知的障害についても
「一般企業で就労している場合(障害者雇用制度による就労を含む)でも仕事の内容が保護的な環境下でのもっぱら単純かつ反復的な業務であれば2級の可能性を検討する。」
とされ、仕事場での意思疎通の状況を考慮するの項目についても一般企業で就労している場合(障害者雇用制度による就労を含む)でも他の従業員との意思疎通が困難で、かつ不適切な行動が見られることなどにより常時の管理指導が必要な場合は2級の可能性を検討する」とされています。
所得制限があります
知的障害による障害基礎年金には前年度の所得による所得制限があります。
これは知的障害による障害年金の初診日が誕生日として扱われるため保険料を支払っていなくても受給できるため一定の制限をかけたという政策的な理由です。
具体的な所得制限は以下のようになります(令和7年度)。
・所得が4,721,000円を超える場合は障害年金の全額停止
・所得が3,704,001円から4,721,000円の場合は障害年金の2分の1の年金額が停止されます
・所得が3,704,000円以下の場合は障害年金の全額が支給されます。
なお、扶養親族がいる場合、扶養親族1人につき所得制限額が38万円加算されます。
対象となる扶養親族が老人控除対象配偶者または老人扶養親族であるときは、1人につき48万円が加算され、特定扶養親族または控除対象扶養親族(19歳未満の者に限る)であるときは1人につき63万円が加算されます。支給停止となる期間は、10月から翌年9月までとなります。
療育手帳と障害年金
療育手帳は児童相談所又は障害者更生相談所において、知的障害と判定された場合に取得でき東京都や横浜市は愛の手帳、さいたま市はみどりの手帳、青森県、名古屋市は愛護手帳と言います。
発達障害の場合で知的障害を伴う場合は療育手帳の取得が可能ですが伴わない発達障害の場合は精神障害者保健福祉手帳の対象となります。
療育手帳と障害年金は別の制度ですので別々にお手続きを行う必要があります。
通常は療育手帳を幼少期から小学校の時に所得する場合が多いと思いますが成人してから取得する場合もあります。
療育手帳はIQ70~75位から取得することが出来ます。
障害年金の審査においても療育手帳の内容は影響します。療育手帳の判定区分が中程度以上の場合(IQ50以下の場合)は1級または2級に認定される可能性があります。
また療育手帳の判定が軽度の場合にも不適応行動等により日常生活に著しいし制限が認められる場合は2級に認定される場合があります。
療育手帳が無い場合は幼少期から知的障害があることが養護学校や特殊学級の在籍状況、通知表などから客観的に確認できる場合は2級の可能性があります。
以前は療育手帳が無い場合でも障害年金の審査にそれほど影響がなかったように思いますが最近の厳密になった審査状況から療育手帳がない場合は上記の養護学校の在籍状況等の申告が必要になってくると思われます。
二十歳になったら忘れずに請求する
前述のように知的障害による障害年金の手続きを20歳を過ぎてから請求される方が多くいらっしゃいます。
これらの方々は20歳から受給できたはずの年金を受給せずに長年経過してしまった方々がほとんどです。
このことから、知的障害によって就労や日常生活に支障が生じている場合には20歳の誕生日が到来した時には忘れずに障害年金の手続きを行うことをお勧めいたします。
また、仮に20歳の誕生日に障害年金の手続きを行わずに経過してしまった場合にも二十歳当時の診断書を入手することで、最大で5年分の過去の障害年金を受給することができる場合もあります(遡及請求)。
まとめ
知的障害による障害年金の手続きは初診日の特定や診断書の担当医師への依頼等において、他の精神疾患の場合と比べ特殊性がありますが、一方でその特殊性ゆえお手続きがスムーズに進む場合が多くあります。
初診日の特定、保険料の納付要件は原則的に問われません。
このことから、20歳の誕生日を迎えた際には忘れずにお手続きをすることが重要であるといえます。
知的障害による障害年金の受給事例