障害年金と聞くと手や脚に障害を持った方が受給できる年金と思われる方もいらっしゃいますが、精神のご病気を含めて障害年金は原則としてすべての傷病がその対象となります。
むしろ、最近ではうつ病を始めとする精神のご病気による障害年金の申請が増加しています。
精神による障害年金の申請について詳細に解説していきたいと思います。
目次
精神の病気はすべて対象となるか
ほとんどの精神の病気は障害年金の対象となる
うつ病、躁うつ病(双極性感情障害)、統合失調症、てんかん、知的障害、発達障害(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群・レット症候群・児童期崩壊性障害 ・ADHD )などの精神の病気は障害年金の対象となります。
障害年金の申請を行う場合に重要な点は病名ではなく、むしろ日常生活や就労にどの程度支障が生じているのかと言った観点から判断される障害年金の等級に該当する病状が重要と言えます。
神経症は原則として障害年金の対象とならない
パニック障害、強迫性障害 、PTSD 、社会不安障害、摂食障害などの神経症は原則として障害年金の対象となりません。
障害年金は、ほとんどすべてのご病気が対象となり、病名により対象外となるのはむしろ珍しいケースです。
このため、担当医師に神経症と診断されている場合には障害年金の受給は、諦めざるを得ないのが現実です。
一方で、病状が重く「精神病の病態を示している」ような神経症の場合には、障害年金の対象となる場合があります。
この場合には診断書の備考欄に「精神病の病態を示している」旨を担当医師に記載してもらい、合わせて当該精神病の ICD-10コードを記載してもらう必要がありこのことで障害年金を受給できる場合があります。
申請のポイント
初診日の特定
精神のご病気を含めて障害年金の手続きで最も重要な点の一つが初診日と特定です。
初診日の特定とは当該精神のご病気によって初めて病院を受診した日をカルテなど客観的証拠によって証明する(受診状況等証明書の作成等)ことをいいます。
初診日からあまり時間が経過していない場合には、初診日の特定はあまり苦労せずに行うことができます。
一方で、初診日から何年も時間が経過している場合には病院が廃院していたりカルテが廃棄されているために初診日の特定が難しくなる場合があります。
また初診日が特定されることで国民年金または厚生年金のどちらから障害年金が支給されるかが決まります。
初診日の時点で国民年金に加入している場合には障害基礎年金が支給され、厚生年金に加入している場合には障害厚生年金が支給されます。
障害基礎年金と障害厚生年金は違い(等級、年金額など)がありますので、初診日の段階でどちらの年金に加入しているかは重要であるといえます。
保険料納付要件
初診日の特定ができた場合その初診日を基準に保険料の納付要件を満たしているかどうかが次に問題となります。
保険料納付要件の保険料とは国民年金保険料のこといます。
障害年金も保険の一種ですので、年金を受給するためには事前に保険料を支払っている必要があります。
初診日を基準に被保険者期間の3分の2以上の保険料を支払っているか、または初診日以前の直近1年間に保険料の未納がない場合には保険料納付要件を満たしているといえます。
保険料の納付要件を満たしているかどうかは場合によっては計算が複雑となる場合もありますので、市区町村役場か年金事務所でご確認することをおすすめします。
認定基準に該当する病状
初診日が特定され、特定された初診日を基準に保険料の納付要件が満たされている場合には、あとは障害認定基準に該当する病状の場合には障害年金を受給することができます。
障害認定基準は国民年金令別表と厚生年金令別表によって下記の様に規定されています。
1級・・・身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度のものとする。
この日常生活の用を弁ずることを不能ならしめる程度とは他人の介助を受けなければほとんど自分の用を弁ずることができない程度のものである。
例えば、身の回りのことは辛うじてできるがそれ以上の活動はできないものまたは行ってはいけないもの、すなわち病院内の生活で言えば活動の範囲が概ねベッド周辺に限られるものであり、家庭内の生活で言えば活動の範囲が概ね就床室内に限られるものである。
2級・・・身体の機能の障害または長期にわたる安静を必要とする病状が日常生活が著しい制限を受けるかまたは日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。
この日常生活が著しい制限を受けるかまたは日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度とは必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で労働による収入を得ることができない程度のものである。
例えば家庭内の極めて温和な活動(軽食作り・下着の洗濯等)はできるが、それ以上の活動はできないものまたは行ってはいけないもの、すなわち病院内の生活で言えば活動の範囲が概ね病棟内に限られるものであり、家庭内の生活で言えば活動の範囲が概ね家屋内に限られるものである。
3級・・・労働が著しい制限を受けるかまたは労働に著しい制限を加えることを必要とする程度のものとする。
また傷病が治らないものにあっては労働が制限を受けるかまたは労働に制限を加えることを必要とする程度のものとする。
傷病が治らないものについては障害手当金に該当する程度の障害の状態がある場合であっても3級に該当する 国民年金令別表及び厚生年金令別表
精神の傷病別の申請手続きの特徴
うつ病
申請数が最も多いうつ病
精神のご病気による障害年金の申請において最も多いご病気がうつ病です。
職場によるストレスなどからうつ病になってしまう方が増加しており、そのことから、障害年金の申請も増えていると思われます。
うつ病の初診日
初診日は前述のように障害年金の手続きにおいて最も重要な要素の一つです。
初診日は初めて当該ご病気によって病院を受診した日ですが、うつ病の場合にはうつ病のために初めて病院を受診するというよりも初めは不眠症や神経症、自律神経失調症といったうつ病の前段階のご病気で受診する場合が多いと思われます。
うつ病とこれらの病気では病名は異なりますが不眠症や神経症、自律神経失調症とうつ病は一つの病気とみなされまたは相当因果関係がある病気とみなされ、これらの病気の初診日がうつ病の初診日となりうつ病と診断された日が初診日となるわけではありません。
躁うつ病(双極性感情障害)
躁うつ病(双極性感情障害)のご病気の特徴はうつ状態の場合にはうつ病と同じように意欲低下、抑うつ状態、朝起きられない、希死念慮といった症状が出る一方で躁状態のご病状の特徴としては高額の買い物をしてしまったり、クレジットカードを乱用してしまったりまた思いもよらぬ発言を行い人間関係のトラブルを起こしてしまう等を挙げることができます。
障害年金の手続きにおいては躁状態でのトラブルもさることながら、やはりうつ状態で意欲低下などの病状のために日常生活や就労に支障が生じていると言う点を重点において行う必要があります。
統合失調症
統合失調症のご病気の特徴は幻聴や幻覚、他人から覗かれているなどの被害関係妄想などの主要な症状が出ることの他、うつ病と同様に意欲低下などの症状も出る場合があります。
統合失調症による障害年金の手続きにおいては、これらの症状により日常生活や就労にいかに支障が生じているのかといった点に重点を置いて手続きを行う必要があります。
また統合失調症の場合には就労支援施設や障害者枠で就労を行っている場合には障害年金を受給できる場合があります。
発達障害
発達障害の特徴
発達障害による障害年金の申請においては、発達障害のご病気の特徴である他者とのコミニケーションをうまく取ることができない点や社会生活に困難が生じている点などについて重点を置いて障害年金の申請をする必要があります。
また発達障害の中でも自閉症、アスペルガー症候群、小児期崩壊性障害、学習障害、注意欠陥多動性障害などそれぞれのご病気の特徴がありますので、それらのご病気の病状がいかに日常生活や就労に支障をきたしているのかという点を重視する必要があります。
発達障害と知的障害の関係(初診日の特定)
また、発達障害と知的障害が併発している場合には知的障害が障害年金の対象となる3級以上の病状の場合には知的障害と発達障害は同一疾患とみなされ初診日は知的障害の初診日である生まれた人なります。
一方で、知的障害の病状が障害年金3級に満たない程度の病状である場合には知的障害と発達障害は別々の病気とみなされ発達障害の初診日は発達障害のため初めて病院を受診した日となります。
知的障害
知的障害での障害年金の申請において最も特徴的な点は初診日が生まれた日となることです。
知的障害は生来的なご病気の為初診日は初めて病院を受診した日ではなく生まれた日となります。
また知的障害での障害年金の申請の場合は IQ が診査の一つの要素となりますがIQの数値のみではなく、当該障害により日常生活や就労にいかに支障が生じているのかといった点から総合的に診査が行われます。
てんかん
てんかん発作は部分発作、全般発作、未分類てんかん発作などに分類されますが障害年金の対象となるのは薬物療法によって発作を抑制できないてんかんに限られます。
また、てんかんの発作も意識障害の有無や転倒の有無と程度、随意運動が失われる発作か否か等により区分され障害年金の受給の可否や等級が決定されます。